カシューナッツはお好きでしょうか?
64.ハルカ
「ハルカさん、おはようございます」
私の新しいマネージャーは、とてもスタイルが良くて、とてもキレイな人だった。
名前は高橋未実(たかはしみみ)、私は“未実(みみ)さん”と呼んでいる。未実さんは控えめな性格で、品のある人だった。でも、声に覇気がなくて、弱々しかった。しかも、笑顔がへたくそで、まるで顔面麻痺のようだった。
「未実さん、そんなに引きつった顔で笑わないでください。怖いです」
「あぁ……すいません。私昔から、笑顔がへたくそで……」
そう言うと、未実さんはうつむいてしまった。こんなにキレイなのに、こんなに根暗だなんて、もったいない人だなぁ。
「それで、今日のスケジュールはどうなっていますか?」
「あ、はい! ちょ、ちょっと待ってくださいね」
そう言うと、未実さんは手帳を開くことなく、直ぐにスケジュールを教えてくれた。全て暗記していたのだろうか?
「……わかりました。ありがとうございます。ところで、今日のお昼に、お友達とランチをしたいのですが、現場を抜けても大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ。今日のスケジュールでしたら、2時間ほどであれば問題ありません」
「それでは、お昼2時間ほど抜けますので、よろしくお願いしますね」
「あ、はい。あの、実は私も、今日のお昼……」
「すいませーん。マネージャーさんいますか?」
突如、未実さんのか細い声を掻き消すように、若いディレクターの人がやってきた。
「ちょっと来てもらえます?」
そして、「あぁ、あぁあ」とうなっている未実さんの腕をつかみ、乱暴に連れて行った。
「ふぅー……未実さん大丈夫かな?」
一息ついた私は次の撮影が始まるまで休もうと思い、ソファーに座った。
「ん? これは?」
ソファーの前にある机に、一冊の雑誌が置いてあった。その雑誌には『夏のグルメ大特集!』と書かれていた。この部屋には私と未実さん以外いなかったから、未実さんが置いていったのかな?
「わぁ! おいしそう!」
私は暇つぶしがてらにその雑誌を読んだ。
「お! ここのイタリアンのお店おいしそうだなぁ。よし、今日の川島さんとのランチはここにしようかな」
私はこのとき、このページの端っこが折られていることに、気付かなかった。
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ