カシューナッツはお好きでしょうか?
53.カエデ
暗黒豆腐について調べた翌日、私は豆腐屋『白角』の店長に謝ろうと思い、店の近くまで来ていた。
どうやって謝ろう? どんな言葉で謝ろう? 私は昨晩からずっと考えていた。開口一番「すいませんでしたぁ!」とアントニオ猪木のように叫びながら土下座する? それとも、最初から涙を瞳に浮かべて、「ごめんなしゃ〜い」って幼女みたいに許しを請う? もしくは、ミニスカートを履いて「うっふ〜ん。ごめんあそばせ」みたいな感じでお色気謝罪をする?
……という風にいろいろ考えた。でも、どれも私のこの謝罪の感情を表現するには力足らずで、うまくいかないと思ったから、これらの案は除外して他の謝りかたを考えた。
「はぁー」
結局、私のこの感情をうまく伝える謝りかたなど思いつかなかった。私は「こうなったら出たとこ勝負だ!」と思い、ため息をつきながら豆腐店『白角』の前まで来た。
「よし!」
私はコブシに力を込め、意を決して『白角』の店内に入った。
「店長さん、ごめんなさい!」
そして、素直に謝罪の言葉を口にし、直ぐに頭を下げた。これが、私に出来る最善の謝罪だと思った。
「…………」
頭を下げて数十秒、いまだに私の謝罪に対する返答はない。店長さんは沈黙したままだ。やはり店長さんは怒っているのだろうか? 「お前の言葉など聞きたくない、帰れ!」 と言われるのではないかと思い、私は怖くて中々顔を上げることができなかった。
「店長さんが、私としゃべりたくない気持ちはわかりますが……」
私はあまりにも店長さんの沈黙が長いので、おそるおそる顔を上げた。
「あれ? 店長さんは……」
そこに、店長さんはいなかった。どうやら留守のようだった。
「はぁー。なんだよぉ、気合入れて損した」
私は拍子抜けしてしまい、深くため息をついて緊張を解いた。
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ