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カシューナッツはお好きでしょうか?

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52.ハルカ



「やあ、ハルカきゅん、おっつー!」

 この人を2、3度見たことがある。確かプロダクション『わっしょい』のお偉いさんだ。

「お疲れ様です。えっと……」

「あぁ、俺のことは“マッツー”って呼んでよ!」

「はぁ、マッツーさん……お疲れ様です」

 正直、なれなれしくて私の嫌なタイプの人だと思った。

「この前出した新曲、『初恋はナッツの味』聴いたよ〜。すごくよかったよん〜」

 マッツーさんは自然な動きで私の隣に座り、自然な動きで私の肩に手を回した。

「はぁ、ありがとうございます」

 私は相手がお偉いさんということもあり、肩にまわされた手を無下に解くことが出来なかった。

「ハルカちゃん、今何歳?」

 肩に回された手がスリスリと私の柔肌を擦った。すごく気持ち悪かったけど、我慢した。アイドルという仕事をがんばりたかったから、私は我慢した。

「16歳です」

「若いね〜」

 今度は手を握られた。執拗(しつように)に、ねちっこく、ニギニギされた。胸糞悪かった。でも、私は嫌な気持ちを一切顔に出さずに我慢した。我慢することも仕事だと思うから。アイドルという仕事は、嫌なことを我慢してでも、自分の気持ちに嘘をついてでも、しがみ付く価値のある仕事だと思うから。

「マッツーさん……そろそろハルカ次の収録があるので……」

 マッツーさんのセクハラを見かねたマネージャーさんが、私に助け舟を出してくれた。

「あ? おまえ俺のこと舐めてんの?」

 急に、マッツーさんの口調がきつくなった。

「俺がハルカちゃんのスケジュール把握してないとでも思ったのか? ハルカちゃんの次の仕事まで、まだ1時間以上あるだろうがよ」

「そ、そうですが、いろいろと準備がありますので……」

 マネージャンさんはたじろぎながらも、私のために今一度、マッツーさんに対して帰るように催促してくれた。

「ふん。まぁいい。今日のところは帰るとしよう。それじゃ、ハルカちゃんまたね〜」

 3日後、マネージャーさんが急に変わった。理由は教えてもらえなかった。