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43・ふけさん



『ふけさん、ごめん。店主殴った』


「ぶはぁうわううう!!!」

 私はカエデさんからのメールを読んで、思わず飲んでいたコーラを噴出した。

「おい! 田中敬一汚いぞ!」

「すまん、友よ。急用ができた。サラバ!」

 私は直ぐに荷物をまとめて、席を立った。今日も川島くんに拘束されていたのだが、これは一大事。川島くんにかまっている暇はない。

「おい! まだ話は終わってないぞ! 捕まえるぞ、この野郎!! お……」

 背後で川島くんの声が聞こえた気がしたが、きっと空耳だろう。私は大学以来の親友であり、今現在警察官として立派に働いている川島くんに心の中で「サヨナラ」と別れを告げて、喫茶『パンヌス』へと急いで向かった。




「カエデさん!? いったいどういうことなの!? ……カエデさん?」

 喫茶『パンヌス』のドアを勢いよく開けて、困惑の思いを叫びながら、私はいつもの席を見た。そこに、カエデさんの姿はなかった。

「カエデ……さん? どこにいるの?」

「やあ、ふけさん遅かったね。カエデちゃんなら、さっき救急車で運ばれたよ」

「え!! どいうことマスター!? どこの病院? 何があったの? 怪我? 病気? 事故? 何があったの!?」

 私はマスターの胸ぐらを掴み、大きく揺さぶり、真相を求めて詰め寄った。

「うげぇ……ぐ、ぐるぢぃいよ……」

「ねえ!! マスター!! 答えてよ!!」

「ぐぅ……がほぉ!」

「どういうことなんだよ! マスター! 何とか言ってくれよ!!」

「…………」

 数分後、マスターは何故(なぜ)か気を失い、倒れた。カエデさんだけでなく、マスターの身にまで災いが起こるとは……。

 何かが狂い始めている。私はそう思わずにはいられず、とりあえず救急車を呼び、マスターの胸元についている私の指紋を拭き取り、ことの一部始終を見ていた客に賄賂(わいろ)を渡して退店してもらい、喫茶『パンヌス』の店先に「本日の営業はマスター不在のため休止致します」と書いた紙を張った。

「ピーポーピーポーピーポー」

 そして、救急車が喫茶『パンヌス』にやってくると、救急隊員に
「どうやら喫茶『パンヌス』の経営がうまくいかず、マスターは自殺を図ったらしい」
 と虚偽の状況を説明し、気を失ったマスターと共に、私は救急車に乗り込んだ。