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33.ハルカ



「きゃああああ!!」

 気味の悪いおじさんはカッターナイフを振りかざし、私に向かってきた。私は怖くて目を瞑り、とっさに窓を背にして身をかがめた。

「もげぇ!!」

 もげぇ……? 「もげぇ」という滑稽な声を不思議に思った私は恐る恐る目を開けた。すると、気味の悪いおじさんは何故か気を失って倒れていた。

「いったい……」

 私が状況を理解できず、キョトンとしていると、

「ちょっと、そこのお嬢さん。悪いけどそこにあるカッター取ってもらえる?」

 窓の外でロープに吊られている男性に話しかけられた。

「……社長さん?」

 その男性は、紛れもない社長さんだった。

「はやくしてくれるかな? 結構つらいんだよね、ロープで吊られるのって」
「あ、はい……」

 私は社長さんが全身黒タイツ姿でロープに吊られているというありえない状況を前に、混乱していた。

 何かの撮影、なのかなぁ……。

 それくらいしか、この状況をうまく説明することのできる考えが思い浮かばなかった。

「もう少し、手を伸ばして」

 社長さんはまるで、振り子のような動きで窓に近づいてきた。

「は、はい」

 私は社長さんに言われるがまま、窓からめいいっぱい身を乗り出して、カッターナイフを差し出した。

「ありがとう。それじゃ」

 カッターナイフを受け取った社長さんはそう言うと、自らの体にくくりつけてあるロープを切断した。

「ぎぇええええええ!」

 そして、暗がりの地面へと消えていった。