カシューナッツはお好きでしょうか?
12.ふけさん
「ま、まってくれ! わ、私は社長じゃないんだ!」
生命の危険を感じた私は、自分が社長ではないことを正直に話し、謝罪することを決意した。私の誠実な思いが届いたらしく、少女は嵐のようなコブシを抑えてくれた。
「社長じゃないって……じゃあ、あんた誰?」
「申し送れました。私、田中敬一(たなかけいいち)と申します。皆さんからはよく『ふけさん』と呼ばれます。ご覧のとおり、私とても老けた顔をしておりまして、それでふけさんと呼ばれています。あ、これでもまだ28歳なんですよ。驚きました?」
「うそ!? 28歳? ふけさん? いや、だから……えっと、あんた、あの芸能プロダクションとは関係のない人なの?」
「はい、そうです。私この町の市役所で働いている、公務員でございます」
「……じゃあ、何で社長だって嘘をついて、あのオーディション会場に潜入したの?」
「おもしろそうだったからです」
「……じゃあ、なんであのオーディションのとき、私を槍玉に挙げて、責めるような発言をしたの?」
「それは……」
私は思わず返答に困った。返答しだいでは、殺される。そう思えるほど、彼女の目は鋭く私の瞳を睨んでいた。私は少女の怒りが少しでも収まるような回答を必死で考えた。
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ