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10・ふけさん



 私に重いコブシをあびせた少女は、何故かマジマジと私の顔を見てきた。そして、私に顔を近づけてきた。……これはまさか!? 「キスして欲しい」のサインではなかろうか!! ここは男としてはずすわけにはいかない!

 そう思った私は少女の唇に自らの唇を押し当てた。

 ……もう少し美しい表現のできる接吻をしたかったが、こういった経験の少ない私では、衝突事故のようなキスが限界だった。

「おらぁ!!!! てめぇ、このやろう!」

 衝突事故のようなキスのあとにやってきたのは、少女の甘い言葉ではなく、まさに衝突事故のようなコブシだった。

「はぐぅう!!」

 私は後方に吹き飛ばされ、テトラポッドに頭蓋骨を打ちつけた。

「あんた……私から夢だけじゃなくて、ファーストキスまで奪いやがって! 社長かなんだか知らないけど、少し偉いからって、人の大事なもの奪っていいわけ!? ほんとサイテー!!!」

 コブシの嵐が私を襲う。蹴りの嵐も。そして、そんなコブシと蹴りの嵐の中、冷たい雨が降ってきた。

「これは暴風雨になりそうだ」

 私は、まるで滝のようにぼったんぼったんとたれ落ちる少女の涙を見ながら、そんなことを考えていた。