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カシューナッツはお好きでしょうか?

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123.ふけさん



「私は君が大好きなのだよ」

 思いを伝えれば楽になれると、どこかで思っていた。でも、実際はそんなことなくて、むしろ逆。もう、息が止まりそうなくらい苦しかった。

「…………」

 カエデさんは不思議な顔で黙ったままだ。カエデさんは、一体何を考えているんだ? 何でもいいから、はやく何か言ってくれ! この状態が一番つらいんだよ!! 

 私があまりの苦しさに意識を失いそうになったその瞬間、

「私も好きだよ」

 時が止まった。

「コーヒー」

 すぐに時が流れた。

「コーヒー……?」

「そう、コーヒー。ウエイトレスの仕事も、嫌いじゃない」

「えっと……カエデさん? 何を言っているんだい?」

「私も、一緒に働いてあげる」

「え?」

「ふけさんの傍には、私が必要でしょ?」

「…………うむ」

「それに、私の傍には、ふけさんが必要なの」

 カエデさんは、無邪気に笑っていた。その頬笑みは窓から差し込む光に溶けていて、ふわふわ浮いていた。そんなカエデさんがあまりにも神々しかったので、私はその光に触れたいと思った。

「カエデさん……」

 私はカウンターから出て、カエデさんの目の前に立った。深呼吸をして、大きく手を広げた。そして、カエデさんを周りの光ごと抱きしめようとした。

「ふけさん……」

 カエデさんもその身を私に預けようとした。その瞬間、

「田中敬一いぃいいいいいいい!! お前は、邪魔だぁああああ!! 消えろぉおおおおお!!」

 白目を向いた舞茸さんが、ものすごい勢いでやって来た。そして、その勢いのまま私の首を両手でつかみ、力を入れて絞め始めた。

「ぐ、ぐるぢいぃい!」

「お前のせいで、カエデがアイドルやめるって言い出したんだ!! せっかく松原がいなくなって、ようやく邪魔者はいなくなったと思ったのにぃいいい!! カエデはなぁ将来一番になる最強のアイドル何だよぉおお! おめぇみたいなウジ虫が、邪魔していい存在じゃないんだよぉおお!! てめぇは死ねぇええ!!」

 舞茸さんは本気だった。それが表情からも、私の首を掴む力からも感じ取れた。息が全くできない。このままでは、ほんとに死ぬ。

「やめて!! お願い、ふけさんを離してぇええ!!!」

 薄れゆく意識の中、私はカエデさんの美しい悲鳴に、思わずときめいた。―――そして、意識を失った。