カシューナッツはお好きでしょうか?
119.ハルカ
「川島さん、遅れてすいません」
私がイタリアン『天使のお零れ』に来ると、もうすでに川島さんが待っていた。
「ハルカちゃん、全然待ってないから! さあさあ、おいしいパスタを食べよう!!」
川島さんはいつも通り、ウキウキしていた。この人と一緒にいると、ドキドキはしないのだけれど、なんだか気持ちが楽になる。私と一緒にいるこの瞬間を、こんなにも喜んでくれる人がいてくれて、すごくうれしい。
「そうですね。今日は『天使のほっぺたボロネーゼ』にしようかしら。ところで、カエデさんは?」
今日は、カエデさんも一緒に食事をする約束をしていたのだけれど、まだ来ていないのかしら?
「カエデちゃんなら、もう帰ったよ」
「え? そうなんですか?」
今日のランチはカエデさんから誘ってきたのに、どうして?
「カエデさん、何か言っていましたか?」
私は何か言付けはないのかと思い、川島さんに尋ねた。
「うーんと……」
すると、何やら川島さんは言いにくそうな顔をしながら、口をへの字に曲げた。そして、数秒間黙った後、静かに口を開いた。
「ふけさんの居場所教えて! って言われて、それで、教えたんだ。そしたら、会計も済ませずに出て行ったよ」
「そうですか……」
数日前、私はカエデさんにあることを言われた。その内容はいわゆる“宣戦布告”というものだった。その宣戦布告を聞いたとき、いろんな感情が渦巻いた。それは“焦り”だったり、“悔しさ”だったり、“悲しさ”だったり。でも、そんな感情以上に“楽しい”という感情が私の心に溢れていて、私は思わず笑ってしまった。
あぁ、私の心はなんてヘンテコリンなのかしら。ぐっちゃぐっちゃなのに、それを楽しいと感じられるなんて。
「カエデさん、今回は黙って見過ごしますけど、敗北を受け入れたわけではないですからね」
私は笑いながら、小さく呟いた。
「ハルカちゃん? 今何て言ったの?」
「何でもないです。さぁ、おいしいランチをいただきましょう!!」
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ