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110.アイドル研究家




「まず、私の目的から話します」

 私は人生を賭して、アイドルを研究し続けてきた。アイドルのために生き、アイドルのために出来る最大限をしてきた。それは、アイドルがアイドルとして、ただ空に漫然と輝く星のように、あたりまえに輝いて欲しいという願いに他ならない。

「私の目的は」

 しかし、そんな私の大切なアイドルを、汚(けが)し、自らの欲望を達するために扱い、金のためだけに利用する、最低なヤツがいた。それが、“松原”という最低最悪の男だ。

「松原を、アイドル界から追放させることです」

 松原の存在を知ったのは、私が引退したアイドルについてのコラムを頼まれ、その情報収集をしたときだった。

「松原は、最低な男です」

 『立ち漕ぎシスターズ』、『水玉ポニーイチゴ姫』、『クリスタル』など、アイドルプロダクション『わっしょい』に所属していたもとアイドルの話には、全て松原に対する憎悪がこもっていた。

「実は、占いアイドル『クリスタル』のミミさんも被害者の一人なのです」

 松原がしてきたことは、本当に許せることではなかった。軽いセクハラから始まり、日に日にお触りはエスカレート、最後には肉体関係を求め、断られたらそのアイドルをクビにする。しかも、ただクビにするのではなく、不当な借金を背負わせたり、スキャンダラスな記事をでっち上げ、二度とアイドルとして活動できないように手回しをしていた。

「私は、不当な借金を背負わされたました。その借金を返すために、アイドルプロダクション『わっしょい』で雑用をさせられています」

 ミミさんもまた、肉体関係を松原に求められた被害者であった。当然、断ったらしいのだが、その分酷い仕打ちを受けたという。アイドルプロダクション『わっしょい』のアイドルはやけに引退するのがはやいと思っていたのだが、こういうカラクリがあったのだ。

「松原という男は、別名『ハイエナプロデューサー』と呼ばれています」

 松原は自分のことを名プロデューサーと思っているが、実際は違う。あいつにアイドルプロデューサーとしての才能はこれっぽっちもない。あいつは、金と権力にものを言わせて、才能のある新人アイドルを他のアイドルプロダクションから奪うことしかできない、ただのハイエナだ。しかし、だれもその強大な力に逆らうことができないのだ。全く、無能が権力を持つことほど、怖いことはない。

「私は松原をアイドル界から追放できる、何か決定的な情報が欲しかった。だから、どうにかして松原に近づきたいと思っていました」

 私の愛しいアイドルの輝きを邪魔する者は、絶対に許さない。

「そこで、松原が目をつけそうな、新人アイドルを探していたのです。そして、『暗黒豆腐少女』を見つけたんです」

 『暗黒豆腐少女』のデビューライブを見て私は確信した。“この子は売れる“と。そして、松原が必ず目をつけるだろうと。

「そこで、ミミさんに協力してもらい……私は松原に、あなたが曲を盗んだことを教えました。ほんとうに申し訳ありません」

 ちょうど『暗黒豆腐少女』が売れ出したころを見計らい、ミミさんを通じて松原に情報を流した。”弱み”があれば簡単に『暗黒豆腐少女』を奪えると考えた単細胞の松原は、まんまとひっかかった。

「そして、私はアイドルプロダクション『わっしょい』に潜入することができました。あなたのおかげです」

 この日のために、アイドル研究家としての知名度を上げておいてよかった。単細胞な松原は、有名なアイドル研究家である私が『わっしょい』に入るのであれば、少なくともマイナスにはなるまいと考えたらしく、すんなりと私の入社を承諾したのだ。

「そしてついに、松原を追い詰める“情報”を手に入れたのです。実は、松原には黒い噂がありまして」

 松原は、暴力団とのつながりがあった。もし、アイドルプロデューサーが暴力団とつながりがあることが世間に知れたら、さすがの松原も終わりだろう。少なくとも、アイドル業界では二度とエライ顔はできなくなる。

「しかし、松原のヤツ意外と用心深くて、物的証拠がないんです」

 そう、“噂”程度では、松原の強力な権力を打ち負かすことはできない。物的証拠が必要なのだ。

「そこで、あなたに頼みたいことがあるのですが……」

 そして、その物的証拠を手に入れるためには、田中敬一氏の協力が必要だ。

「カエデちゃんのためにも、お願いします」

 私は、あえて“カエデ”という言葉を添えて、田中敬一氏に協力を求めた。