カシューナッツはお好きでしょうか?
104.ふけさん
川島君は仕事が忙しいだろうに、ほぼ毎日お見舞いに来てくれた。よほど責任を感じていたらしく、来るたびに「すまない……」「俺があのとき職務質問をしていれば……」と、何度も何度も謝っていた。
「そんなこと気にする必要はない。悪いのは私だ。私が喫茶『パンヌス』を潰したのは事実だしな。マスターに謝りたい気持ちでいっぱいだよ」
私はそんな感じで、毎回川島君を慰めた。そんな私の慰めが効いたのか、だんだん川島君は元気を取り戻した。
「敬一、聞いてくれよ! このまえハルカちゃんと食事にいったんだけどさぁ」
入院生活後半には、むしろ元気すぎて疎ましいくらいだった。どうやら、川島君はハルカ君とうまくいっているらしく、日に日にウキウキ感が増していた。
川島君、君は私の見舞いをしたくて来ているのか、それとも恋の話を聞いてもらいたくて来ているのか、どっちなんだい? そんなふうに思ったが、
「ハルカちゃんがさ、ハルカちゃんがな、ハルカちゃん……」
何度も「ハルカちゃん」と言い、楽しそうに話す川島君を見ていると、不思議と「まぁ、少しくらい話を聞いてやってもいいか」という気持ちになった。
一方、ハルカ君は、仕事が忙しいらしく、それほど頻繁にはお見舞いに来なかったが、来られる日は必ず来てくれた。
「社長さん、おいしいカステラ買ってきましたよ。一緒に食べましょう」
「はい、あーん」
「リンゴ剥きますね」
「はい、あーん」
「病院食ってどんな味なんですか?」
「はい、あーん」
どうやら、ハルカ君はまだ私のことが好きみたいだった。それでも、
「そう言えば、このまえ川島さんとお食事をしたんですけど」
ときどきハルカ君の口から「川島さん」という言葉が出ていた。どうやら、川島君のことが多少なりとも気になるようだ。もしかしたら、このまま恋に発展するかもしれない。川島君よかったな。
私は二人の関係が多少なりとも進展したことを、素直に喜んだ。
さて、川島君とハルカ君については、こんな感じだ。次は、カエデさんについて語ろうか。
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ