カシューナッツはお好きでしょうか?
103.ふけさん
さて、読者諸君、こんにちは。この物語の主人公、“ふけさん”こと田中敬一です。これから、私が刺されてから3カ月の間にあった出来事について話そうと思うので、お付き合い願いたい。さて、まずは私のことについて語ろう。
商店街の祭。カエデさんのデビューライブ。あの日、私は刺された。包丁で、グサッと。それで、血がドロドロと出て来て、「なんじゃこりゃ〜!!」と叫ぶ間もなく意識を失った。
「……ここは? あれ? 私はいったい…………?」
私が意識を戻したのは、5日後のことだった。目覚めた場所は病室で、私の目の前にはカエデさん、ハルカ君、川島君、そして、なぜかアイドル研究家の舞茸ひろしさんがいた。
「ふけさん! よかった……」
「社長さん……」
カエデさんとハルカ君は、涙を流して泣いていた。特にカエデさんは、酷く泣いていて、メイクもぐちゃぐちゃで、アイドルにあるまじき不細工フェイスだった。でも、それがとても愛しかった。
「敬一…………すまない、俺が、俺がちゃんとしていれば……」
川島君は川島君で、酷い顔をしていた。自分のことを責めている様な、険しい顔だった。
「えっと……川島君、状況を説明してくれるかな?」
何が何だかまったくわからなかった私は、刺されてから今までのことを川島君に尋ねた。
「実は、お前は喫茶『パンヌス』のマスターと名乗る男に刺されて、その後救急車で……」
私は刺された後、すぐに病院に運ばれた。そして、すぐに緊急手術室に入った。思いのほか傷が深く、出血も多かったため、「最悪死ぬかもしれない」と医師は言っていたらしい。わぁ……ゾッとするわ。生きてて良かった。
「それで、一命は取りとめたんだが……」
結果的に私は一命を取りとめたのだが、意識が一向に戻らず、5日間寝たきりだったらしい。
「……それで今さっき、ようやくお前は目を覚ました、というわけだ」
「なるほど。そんなことになっていたとわ…………ぅう! いてて……」
急に痛みが出てきた。私がその痛みに耐えて歪んだ顔をした瞬間、先ほどまで黙っていた舞茸さんが口を開いた。
「マネージャーさん!! あなたが退院するまでの間『暗黒豆腐少女』のプロデュースを、私に任せてもらえないだろうか!!」
「え?」
舞茸さんは何を言っているんだ? 私はキョトンとしてしまった。カエデさんもハルカ君も川島君も、キョトンとしていた。今は私が意識を取り戻したことをただ喜ぶ時間ではないのかい? 舞茸さん空気読んで! 私はそう思ったのだが、どうやらこの時の私は体も精神も弱っていたらしい。
「絶対に悪いようにはしないから!! ね!? お願いしますよ!!」
「は、はい……」
舞茸さんの暑苦しい情熱に負けて、私は思わず「はい」とうなずいてしまった。
……それから、私は3カ月間の入院生活を経て、今に至るというわけだ。
まぁ、私については基本的に病室で寝ていたか、ナースの真美ちゃんとイチャイチャしていただけなので、これ以上の話はない。次は……そうだな、まず先に川島君とハルカ君のことについて話そうか。
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ