小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

カシューナッツはお好きでしょうか?

INDEX|114ページ/139ページ|

次のページ前のページ
 

101.カエデ



 興奮が冷めなくて、体中から熱が溢れている。それなのに、どこか心にぽっかりと穴があいてしまったような、そんな虚無感も同時に存在していて……なんか変な感じ。

 あ〜あ、終わっちった。もっと歌いたかったなぁ。もっと素敵な曲を、もっと魅力的なダンスを、もっと、もっと、もっと、表現したかった。足りない。全然足りない。みんなもそう思うでしょ?

「おーーーー!!」
「『暗黒豆腐少女』最高だぜ!!」
「アンコール! アンコール! もっと聞きたいよ!!」

 私のそんな心情を知ってか知らずか、私が歌い終わってからもう10分近くたっているのに、誰も帰ろうとしない。男も女も、子供もジジババも、みんな飢餓状態。みんなハラペーニョ。あぁ、私にもっと曲のレパートリーがあれば……残念。

「みんなごめんね。まだ曲が一つしかなくて、アンコールには答えられないの……すごく残念。でもね、でもね、それ以上にうれしくて…………ふけさん!?」

 トークの最中、思わず叫んでしまった。200を超える人の中、自分でもよく見つけられたと思う。間違えじゃない。間違えるわけがない。あれは、ふけさんだ。ふけさんが、見に来てくれたんだ!

 私は正直うれしくて、小さなステージの上から、ふけさんだけを見つめた。すると、ふけさんはしかめっ面でこちらを睨んできた。

“カエデさん、君は何を真面目にしゃべっているんだい? キャラを忘れたのかい? 君は『栗山カエデ』じゃない、『暗黒豆腐少女』なんだぞ!”

 ふけさんに、そう言われた様な気がした。そうか、忘れてたよ。私は『暗黒豆腐少女』だ!

「お前たちぃ!! アンコールアンコールうるせぇーんだよ!! 地獄に落としてやろうか! この腹ペコ星人が! てめぇらみたいな糞野郎は、『暗黒豆腐』でも食っておけばいいんだよ!!」

「きゃーーーー! 素敵!!」

 今日一番の黄色い声援が上がった。

“どう? これで満足かしら?”

 私はそんな感情を込めて、ドヤ顔でふけさんを見た。そのとき、ふけさんの隣にいた人に目が止まった。

 あの人は…………マスター?

 ふけさんの隣には、喫茶『パンヌス』のマスターがいた。ふけさんと一緒に応援に来てくれたのだろうか? でも……何かおかしい。なんで、入院着なの? なんで、トートバッグに右手を入れているの? なんでそんなに、怖い顔しているの?
 
 私がそんなふうに疑問に思った瞬間、

「きゃーーーーーーーーーーーああああああああああああ!!!!!」

 今日一番の歓声が…………いや、悲鳴が上がった。

「わぁあああああ!!!!」
「ひ、人殺しぃい!!」
「ぎゃああああああああ!!!」

 騒ぎの中心には、血のついた包丁を持って立ちすくむ、喫茶『パンヌス』のマスターがいた。そして、そのすぐ近くに、血だらけで倒れるふけさんがいた。

「お、おお前が、悪いんだ! おま、お前のせいで……俺は大事な喫茶『パンヌス』を失った!!! お前が、お前のせいだ!!」

 その瞬間、宇宙に広がっていた熱気が、一気に冷めた。

「いやぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!

 恐怖の叫びが響く夜空は、かなしいほど美しかった。