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100.ハルカ



 目が覚めた。

「ハルカちゃん……よかった。本当に、無事で良かった……」

 目の前には社長さんではなく、川島さんがいた。

「うぅううう……」

 急に、涙が出てきた。

「ハルカちゃん……泣かないでおくれよ……」

 あぁ、良かった。目の前にいるのが社長さんじゃなくて。あぁ、ほんとうによかった、川島さんがいてくれて

「うぅううえーーーーん! あぁああああーーーん!! ひっく、ひっく……」

 緊張の糸が一気に切れたらしく、私は子供みたいに声を荒げて泣いた。馬鹿みたいに泣いた。もし、目の前にいるのが社長さんだったら、泣けなかった。きっと、それがお父さんでも、お母さんでも、親友でも、泣けなかったと思う。川島さんの目の前だから、私は泣けたんだ。

「ハルカちゃん、お願いだから泣かないでおくれよ。君が泣くと、俺はすごく辛いんだ……」

 そう言うと、川島さんはすごくぎこちない動きで私を抱きしめてくれた。すると、私は不思議な安堵感に包まれて、さらに泣いた。とめどなく泣いた。

「ごめんよ……俺じゃ君の涙は止められないんだ…………」

 川島さんは悲しそうな瞳でそう言っていたけど、川島さんだから私は泣けるんだよ。それを言葉で伝えたかったけど、ほんとに涙が止まらなくて、言葉にできなかったから、私は同じくらいの力で川島さんを抱きしめた。

”この気持ち、伝わるといいな”

 そんなやわらかな願望を込めて、抱きしめた。

 あぁ、川島さんは不思議な人だ。もう少し、この人のことを知ってみたい。そんな小さな欲求が、このとき私の心に、芽生えていた。