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96.警察官川島



 ハルカちゃんが自分の想いを全て言い終えたら、帰ろう。そう思いながらハルカちゃんの一生懸命な姿を少し離れたところで見ていた。3分、5分、8分……ハルカちゃんの怒涛の勢いが中々止まらない。もう直ぐ10分経つ。10分間ずっとしゃべり続けても終わらないくらい、社長さんに対する想いが募っていたんだね。

 そう思うと、ますますハルカちゃんの心の隙間に入ることができない気がして、意気消沈。あぁ、胸が痛い。好きな人が好きな人に想いを告げる場面を見るということは、なんて残酷なんだろう。……やっぱりもう帰ろう。これ以上ここにいても辛いだけさ。

 俺は痛む胸を押さえながら、帰ろうとした。そのとき、

「ドーーーーーーーン!!! ドン、ドーーーーン!!」

 花火の音が夜空に鳴り響いた。花火の音を聞いた俺は足を止めて振り返った。

「ハルカちゃん!?」

 花火を見るつもりだった。花火だけを見て帰るつもりだったのに、やっぱり目線は空よりもずっと下、ハルカちゃんに目が行った。そこで俺はびっくりした。先ほどまで元気にしゃべっていたハルカちゃんが、地面に倒れていたのだ。

「ハルカちゃん!! 大丈夫!?」

 気がつくと俺はハルカちゃんのもとへ駆け寄っていた。ハルカちゃんは意識がなく、ぐったりとしていて、冷や汗を大量にかいていた。

「川島君!? なんでここにいるの?」

 田中敬一は急に表れた俺を見て、驚いた表情をしていた。

「今はそんなことどうでもいいだろ! はやく救急車を呼ばないと!」

「そ、そうだな……いや、ここのすぐ近くに病院がある。救急車を呼ぶより運んだ方がはやいだろう」

「それもそうだな」

 確かに、ここからなら担いで運んだ方がはやい。俺もそう思い、ハルカちゃんを担ごうとした。そのとき、田中敬一が申し訳なさそうな表情で言葉を発した。

「…………川島君、君一人でハルカ君を病院まで運んであげてくれないか? 実はカエデさんのデビューライブが始まったのだよ。私はやはり、カエデさんの傍にいてやりたいのだ。病院に運ぶだけなら1人で十分だ。2人いても邪魔になるだけだろうし……川島君、頼めないだろうか?」

 正直、俺は戸惑った。きっと、ハルカちゃんは“俺”ではなく“社長さん”に助けてもらいたいはずだ。ハルカちゃんが目を覚ましたとき、目の前にいるのが“社長さん”じゃなくて“俺”だったら、きっとがっかりするに違いない。そう思うと、急に怖くなった。

 ハルカちゃんは倒れて意識を失っているというのに、そんなくだらない考えが俺の頭にこびりついて離れない。

「……いや、俺じゃだめだ。田中敬一、お前がハルカちゃんを運ぶべきだ。俺なんかがハルカちゃんを助けても、ハルカちゃんは喜ばない。俺に、ハルカちゃんを助ける”権利”なんて、ないんだよ……。だからお前が……」

 このときの俺は、恋に負けたかわいそうな自分のことしか考えられない、最低なヤツだった。

「おい! 川島ぁ!! お前本気で言っているのか!?」

 急に、田中敬一が俺の言葉を遮るように、すごい剣幕で怒鳴りだした。俺は驚き、唖然とした。

「『大好きな人が助けを求めているときに手を差し伸べる』その行為に“権利”など存在するはずがないだろうがぁ!!! このバカモノめぇええ!!! もういい、お前は帰れ!! ハルカ君は私が病院まで連れて行く! ……君はもう少し男気のあるヤツだと思っていたけど、どうやら違ったみたいだな。失望したよ」

 そう言うと、田中敬一はハルカちゃんを背負い、近くの病院に向かって走り出した。

 俺はどうすることも出来ず、ただ立ち尽くし、途方に暮れることしかできなかった。