小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

カシューナッツはお好きでしょうか?

INDEX|106ページ/139ページ|

次のページ前のページ
 

94.カエデ



『本日のメインイベント、『暗黒豆腐少女』のライブが10分後に始まります。みなさん、中央広場特設会場へ、ぜひいらしてください!』

 アナウンスが流れた。どれくらいの人が来てくれているのだろうか? 今いる舞台裏からでは確認できない。まぁ、そんなことはどうでもいいわ。たとえお客さんが一人でも、大丈夫。私が歌えば、みんな集まって来る。それはもう、電灯に群がる虫の様にワラワラと。私の熱気が祭りの熱気ごときに負けるはずがない! 残り10分……もう一度気合を入れなおそうかしら。
 
 私がそう思った時、声をかけられた。

「カエデちゃん!! デビューライブがんばってなぁ〜!!」

 声の主は豆腐屋『白角』の店長さんだった。

「あ、店長さん。どうしたんですか?」

「応援に来たんだよぉ!! 今日のライブ、楽しみにしとるでねぇ」

「……ありがとうございます」

 私の心の支えは、ふけさんだけじゃなかった。店長さんもまた、私を支えてくれた。それを知れただけで、私の両足はどんな重圧にも耐えて、立派に私の体を支えることができる。けして、私の体重が重いという話では、ないのですよ。

「今日はカエデちゃんの記念すべき日だからね。プレゼントを用意したよ。奮発したからねぇ〜」

「プレゼント?」

 ……嫌な予感がした。

「ほれ! 改良に改良を重ねた、特性『暗黒豆腐』だよ!! ライブの前にお食べ!! 元気になれるよ!!」

 嫌な予感は的中した。……どうしよう。正直、大切なライブの前に『暗黒豆腐』を食べてお腹を壊したら嫌だし。でも、あくまでも私は『暗黒豆腐』のPRのためにライブを行うわけで、ここで拒否するのも気が引けるなぁ……。

「ほれほれ! 大丈夫だっでぇ。今度こそ自信作だから! 一番にカエデちゃんに食べてもらいたくて、味見はしてないんだけどね」

 味見をしろぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 私はそう叫びたかったが、一度店長さんを殴って反省しているので、我慢した。

「はぁ…………いただきま……しょう!!」

 私はやけくそになり、勢い良く『暗黒豆腐』を鷲掴み、そのまま口に放り投げた。

 手の中で飛び散る肉体。口に広がる黒い汁。そして、ほのかに香る生臭さ。

「まずい!! やり直し!!」

「うへぇ! また失敗したか……。ごめんなぁカエデちゃん。次こそはとびきりおいしい『暗黒豆腐』を作るからねぇ」

 もう諦めろ! 私はそう思いながらも、ひきつった笑顔で「楽しみにしています」と答えた。

「カエデさん! もう開演時間です! ステージへ急いでください!」

 気がつくとデビューライブ開始の時間になっていたらしく、スタッフの人が少し焦った様子で私を呼びに来た。

「あ、はい! それじゃ、私行きますね。店長さん、いろいろとありがとうございました」

 私は『暗黒豆腐』を食べさせられた分を差し引いても、店長さんに対する感謝の方が大きかったから、心の底から頭を下げて感謝した。

「おぉ! がんばって。”プレゼント”、楽しみにしていてね〜」

 店長さんはそう言うと舞台裏から出て行った。プレゼント? はて? さっきの『暗黒豆腐』だけじゃなかったの? 

「カエデさん急いで!」

「あ、はい!」

 私は疑問に思ったが、時間がなかったので急いでステージへと向かった。