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ぽんぽんゆっくりん
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novelistID. 35009
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スクランブラー

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「わっ私も全然分かんない」
 加藤さんが傍で呆気にとられていた西村を呼んで2人で強引に彼女の手を退かした。
「うっうわっ!!」
「なっなんやコレは!?」
 詩歌たちのいる場所からは彼女の顔は藪の背中が邪魔で見えなかった。
 詩歌は藪と新渡戸の間に入って彼女の顔を見た。
 ―――ソレは赤くなっていた。
 彼女の目は真っ赤だった。
 目から血が垂れていた。
 ソレは充血なんてものじゃなかった。
 本当に真っ赤だった。
 水晶体、角膜、瞳孔―――全部真っ赤だ。
 黒い部分と白い部分が何処なのか分からなかった。本当に全部真っ赤なのだ。
 ビックリするぐらい赤だった。
 あかあかあかあかあかあかあかあかあかあかあかあか―――
 若槻の目から涙と血が流れている。
 だが赤と透明では当然赤の方が強い。
 涙はほとんど血に飲まれていた。
 その結果、彼女は赤色の涙を流していた。
 誰かが叫んでいる―――誰だろう―――
 私だ。
 本当に怖かった。
 私は無意識のうちに叫んでいた。
 この世のものとは思えないその光景に―――
「あうぅ―――」
 隣にいた月島つぼみは声が出ていなかった。
 いや、叫んでいたけど詩歌に届いていなかっただけなのかもしれない。
「……なっなにをやったらこうなるんだ」
「―――分からん。こんな症状は初めてみた」
 いつの間にかドアの近くにいたはずの高橋が若槻をしっかりと抑えて、冷静に分析している。
 この人は医者なのか?
 だとしたら、なぜ今まで黙っていた?
「おっおい、アンタもしかして医者なのか?」
 藪が詩歌の疑問を彼に聞いてくれた。
「あぁ、そうだ」
「じゃっじゃあ何が原因なんだよコレは! アンタ分かったんだろ!?」
「落ち着け」
 高橋がさっきとなんら変わらない無表情のまま続けた。
「まだ何も分からっちゃいない。何かの感染症の可能性もある。だがここまでひどいとなると……」
「ひどいと……なんだよ?」
「何かの薬物かもしれん」
「いったい何の?」
「そこまでは分からん」
 高橋が若槻を抑えたまま言った。
 高橋は医者という事実は、若槻の様子が衝撃的過ぎてこの時は有難いと詩歌は思わなかった。
「……コレは何本に見える?」
 高橋が若槻の目の前で3本指を立てる。
「うぅうぅうううぅ……うあぁぁあぁああぁ―――」
「答えろ。コレは何本だ」
「いたいぃいぃぃいいいいぃぃぃいい!!」
「聞こえてるだろ! コレは何本に見える!!」
「何にも見えないいぃぃいいぃいぃぃいいいぃい!!」
 まさか―――失明しているのか?

 その後の高橋の処置は素人の黒住麟には良く分からなかった。しかし、若槻がそれで落ち着いてきたのも事実だ。
 高橋が彼女に目を閉じるようにいい彼女の瞼の上に大きなハンカチをかけた。
 黒住は内心ざまぁみろと考えていたが、同じ部屋にいる以上気味が悪かったというのもあった。
 もし感染症だとしたら―――
 黒住は唾を飲んだ。
「で? 結局何が原因なんだよ? 先生」
「初めは目が赤いのはただ充血しているだけで、本人が過剰に騒いでるだけかと思っていたが―――」
「アレは充血なんてレベルじゃねぇだろ! 目から血がでてんだぞ!?」
「目が出血するという症状はないわけじゃない。白眼の毛細血管が切れたとか、あるいは過剰なストレスによるものだとか―――」
「もしかして感染症じゃ……」
 黒住が一番心配していることを龍造寺が言った。
 だがそれを高橋はあっさり否定した。
「いや違う、そうじゃない。もしそうだとしたらこの部屋にいる誰かが同じようなことになっててもおかしくない。だが発症してるのは彼女ひとりだ。」
「じゃあなんで……」
「目が真っ赤になるというのだけなら角膜下出血がある。だが真っ赤でなおかつ出血するなんてのは珍しい」
「結構ありそうなことやと思うけどな」
 相変わらず呑気な関西弁で新渡戸がグダッた。
 結構ありそうなことなわけねーだろ―――
 黒住は心の中で毒づいた。
「充血して出血ならいくらでもある。だがあれは違う」
 ―――たしかに充血なんてものじゃない。
 以前見たゾンビ映画で目が赤色になったゾンビが襲ってくるというのを観た。
 本当にそれくらい真っ赤だった。
 黒住は若槻の方を見たが、ハンカチが顔に乗っていて目の様子は分からない。
「未知のウイルスってのもあるんじゃねぇか? 若い娘にしかとりつかねぇ未知のウイルスよ」
「やっやめてください!! そんな冗談―――」
 今年で37の私を馬鹿にしているようで腹が立った。
 この西村という男にもイラつく。中年野郎によくいるお調子者だ。
「おっと悪ぃな。別にそんなつもりじゃねぇよ」
「君、こんな所でふざけるのは止したまえ」
 加藤が制したが、西村はとめることなく続けた。
「別にふざけちゃいねぇよ。今の医学だけじゃあ分かんねぇことは多いだろ。なぁ先生」
「たしかにそうだ」
「おっおい高橋君! 君まで何を―――」
「まだ発見されていないウイルスなんて腐るほどある。今ここにいる瞬間にもどっかのラボが新種のウイルスを発見しているだろうな」
「そっそんな……」
「へっへっへ、気ぃ付けた方がいいぜぇ。いっひっひ」
 女子高生4人のうちのひとりが泣き始めた。龍造寺だ。
 見るからに気の弱そうな子だったが、本当だったみたいだ。

「アンタなに泣かしてんのよ!!」
 雪藤詩歌は西村に大声で言った。
 詩歌は怖かった。
 でも、黙ってはいられなかった。
 まだ知り合ってから1時間くらいしかたってないが、この状況への恐怖をお互いに会話で回避した仲だ。
 そんな彼女を怖がらしたこの男が許せなかった。
「いや、別に泣かすつもりじゃなかったんだよ」
「悪ふざけもいい加減にしてよ! この子怖がらして何になるのよ!!」
 詩歌がそういった瞬間、何が起きたのかは分からなかった。
 詩歌は倒れていた。顔に激痛が走る。
 あれ、何で私倒れてんだろ―――
 詩歌はすぐに悟った。 
 西村が詩歌を殴ったのだ。
 やはりこいつは、普通じゃない。
「なっ何をするんだ君!!」
 加藤がそういい西村を取り押さえた。
 それを見た新渡戸も同じ行動をする。
「おい、落ち着けやにいちゃん! 相手は若い娘やで? 殴るのはあんまりとちゃうか」
「ウゼェ! カスが! 俺に指示すんじゃねぇ!!」
 加藤さんを振りのけ、西村の喧嘩慣れした蹴りが新渡戸のでっぷりした腹に命中する。
 だがダメージはあまりなさそうだ。
「いたた、何するんや!!」
「殺すぞ! ブタ親父!!」
「チッ面倒なヤツだ」
 多間木がぼっそり呟く様に言ったがそれを西村が聞き逃さなかった。
「あ? 今何つった?」
「え、いっいや何も」
 この瞬間、詩歌は多間木が西村に殴られると思った。
 だが、そうじゃなかった。
「テメェ多間木隆とか言ったな」
「あ、あぁ」
「火遊びはもうしてないのか?」
「!?」
 西村が怒りの表情からニヤついた、ついさっきまでの表情に変わった。
 対照的に、多間木の表情が見る見るうちに青くなっていく。
 ―――火遊びって何のこと?