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ぽんぽんゆっくりん
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novelistID. 35009
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スクランブラー

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「そんな気分じゃないんでね。それにあの娘が俺に煙草をくれるとも思えない」
「まぁさっきのことは仕方ないよ。この状況だ、取り乱すのは分かる。それに君は―――」
 加藤はしまったといわんばかりに口を塞いだ。
「今更ジタバタしても仕方ない。持ちモンが消えたのはアンタだって同じだろ」
 幣原が加藤に促すように言った。
 まぁさっき取り乱してた俺が言うのもなんだが。
「思い出させてしまってすまない」
「別に忘れちゃいないさ。ただアレは確実にクソ野郎に盗られたってことさ。悪いが一人にしてくれないか」
 加藤は俺の言葉に頷き、開かずのドアの方に行った。
 気が利く男だ。部下にも好かれているに違いない―――
 幣原が話しかけてきた加藤を振りはらって一人になりたかったのには理由が2つあった。
 ひとつはアレが盗られたことによるショックを和らげるため。
 ―――もうひとつは人間観察である。
 仕事上さまざまな人間と接した幣原にとって人間観察はお手のもの。
 というより趣味に近い。
 俺が目を覚ましたのはかなり後の方だ。
 その間にこいつらの内の誰かが盗ったのかもしれない。
 もっともこいつらにアレの価値が分かりそうにはないが……
 それにさっきも見たが、誰も持ってはいない。
 たしかにそうだが、行方を知っていたり―――いや、率直に考えよう。
 この中にサイコ野郎がいるのかもしれない。
 推理小説の古典的パターンだ。
 犯人は被害者側に紛れているのだ。被害者らの仮面をつけて―――
 幣原はさっきより、さらに細かく部屋の人間を観察し始めた。
 一番初めに目に入ったのは新渡戸と黒住。
 コイツらは要マークだ。
 保険会社の副社長とTVディレクターなら―――アレの価値を知っている可能性は十分にある。
 そして妙に気になったのは―――あの女子高生。 
 白州とかいったっけか。どっかで会ったことがあるような気がする。
 幣原は女子高生と若者がかたまっている場所を見た。
 どうしても思い出せない。
 だが、何所かであったことがある。
 間違いなく―――
 しかし、覚えてない以上考えても無駄だ。
 気のせいなのだろうか―――
 ひょっとすると、デジャヴってヤツなのかもしれない。
 開かずのドアの近くに2人の男がいる。
 加藤と高橋だ。
 加藤が熱心に高橋に話しかけてるが、高橋はそっぽを向いたままだ。
 それでも時々頷いたりしているから、聞いてはいるのか。
 さっきはろくに見てなかったが、こうしてみると高橋とは歳が近そうだ。
 服装はラフなシャツにジャンパーを羽織っている。
 職業はいってなかったな。気になるところだ。
 そして―――俺の左側の、壊れたタンスに今もなお、もたれかかっている―――
 名前は和合章真。
 ヤツは自分のことを中学生といっていたがそんな玉じゃない。
 身長が俺より10cm以上高いうえに、ガタイはかなりいい。
 喧嘩慣れしていそうでこの場の全員が飛び掛っても勝てそうじゃない。
 手の中にあるものを飛ばして暇を持て余している。麻雀牌だ。
 あの麻雀牌は初めからこの部屋にあったモンだ。ヤツの足元に散らばっている。
 ふとヤツが俺の方を向いた。
 冷たい目だ。
 中学生の目じゃない。
 やはりこいつは只者じゃない。
 武道も何も知らない俺でもわかる。
 そして気になった。
 こいつはアレのありかを知っているんじゃないか?
 何の根拠もないのにそう思った。
 中学生がアレの価値を知っているわけがない。
 だがこいつは―――
 幣原が見つめていることはお構いなしに、和合章真はただ、手にある麻雀牌をひたすら、静かに弄んでいた―――

「っま、焦んなくてもいずれは警察とかくるよ」
 見た目が中性的な若王子は話し方も中性的だ。
 雪藤詩歌は自分と同じ、高校生の月島と白州と龍造寺に若王子。
 そして、一人大学生の多間木とかたまっていた。
 みんなこんな変な状況なのに落ち着いている。
 この部屋で気づいてから1時間ぐらいはたったんじゃないだろうか。
 だんだん、一同から緊張というものは薄れてきている。
「これだけの人数がいなくなってるんだ。今の日本警察だったら心配することはないよ」
「へ~多間木さん、警察のことに詳しいんですね」
「ああ、伯父が警視総監なんだ」
「けっ警視総監って、えぇ!? それって、警察で一番地位の高いんですよね!?」
 月島が目をランランと光らせる。
「まあ、そういうことになるかな」
「すっご~い!! 多間木さんは東大の現役の法学部だし、お父さんは巨大財閥の会長さんだし、私感動しちゃいました!!」
「本当にすごいですよ。私のお父さんなんか未だに課長止まりなのに」
 詩歌の父親は50目前にしてまだ課長だ。
 お父さんはいつも帰ってから、シャワーを浴びてビールを飲みながらナイター中継をまじまじと見つめる。
 どこにでもいる平凡なサラリーマンなのだ。
 そんな普通の父に比べ、この多間木隆は恐ろしく上流の家庭だ。
 父親はかの有名な倉敷総合財閥の会長で、3人の兄、2人の姉はすでに司法試験に現役合格し、同財閥の社長と専務、裁判官、検察官、弁護士として道を歩んでいる。
 そして今またこの多間木自身も兄たちと同じ道を歩んでいるのだ。
「人は地位が大事なんじゃない、その心が大事なんだよ」
 詩歌のすぐ横で月島がウルウルしている。龍造寺も月島ほどではないが同じ状態だ。
 だが、不思議なことに白州は顔色一つ変えていない。
 多間木の家庭がまるで平凡な一家であるかのような目。
 この子―――まだ、怖いのかな。この状況。
「大丈夫、大丈夫。伯父は俺が一番尊敬する人でもあるんだ。絶対にここを見つけ出してくれるさ」
 その様子にいち早く気づいた多間木が白州の肩に手を置き、笑いながら言った。
「いいな~そんな経歴がありゃすぐ女にモテモテだね」
 若王子が多間木の肩をゆすりながら呟いた。
 なぜか話し方が女にしか見えない顔立ちのこともあり妙に色っぽい。
 ひょっとして、そのケの持ち主なんじゃ―――
 その時だった。
 耳を劈く叫び声が聞こえた。
 鋭い悲鳴―――
 ソレは明らかに苦痛を伴っていた。
 声の主はすぐに分かった。
 ついさっき、幣原と取っ組み合った娘、若槻だった。
「痛いいいぃぃぃぃいいぃぃいいぃいいい―――」
 叫びながら彼女は顔を抑えている。
 いや、あれは顔を抑えているというより―――目を抑えているのか?
 彼女の周りで煙草にたかっていた4人が唖然としている。
「おい! 一体どうしたんだ!?」
 加藤が4人に近づきながら叫んだ。
「しっ知らねぇよ!! 俺らだって驚いてんだ!! この娘が急に……」
「わっ私たち何にもしてないわよ!!」
「じゃあ何故この娘は苦しがってるんだ!! 大丈夫か! しっかりしろ!!」
 彼女はさっきから目を抑えている。
 本当に何が起きたのかさっぱり見当がつかない。
 ついさっきまで普通だったはずだ。
「目がぁあぁぁ痛いいぃぃいいぃぃぃいい!!」
「目!? ちょっと見せてみろ!」
 加藤さんが彼女の手を退かそうとしたが、彼女が振り払う。
「一体どうしたんだろあの娘、さっきまで何も―――」