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ぽんぽんゆっくりん
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novelistID. 35009
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スクランブラー

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 でも他の同年代くらいの子達はおとなしい。
 煙草を持ってるあたりコイツがちんちくりんなだけだろう。
 こういうタイプのAD(アシスタントディレクター)に出くわしたことはあったがその度にイジめてやった。
 私が一番嫌いなタイプは高圧的なヤツだ。その次に礼儀をわきまえないヤツ―――
 だからそんなヤツを一瞬でも羨ましいと思ってしまった自分が腹立たしい。
 黒住麟はヘビースモーカーだった。
 煙草は一日に20本は軽く吸う。
 酒は数年前からとめている。
 かなり酒癖が悪い方で、以前上司や同僚と飲みにいって大変なことになったからだ。
 酒はやめれた黒住だが、煙草だけはやめれなかった。
 桜TV局では横暴な女性ディレクターとして有名だ。
 孤島にアイドルとカメラマンの2人だけを残すというかなり強引な内容が当たり、それ以来キワモノ番組ばかり作ってい る。
 初めて彼女に会う新人ADやTKは運が良かったと8割方は思う。
 見た目はやさしそうでかなりの美人だし、プロデューサーたちからの評価もいいからだ。
 たしかに上司やその繋がりの人間に対しては非常に交友的だ。
 だが彼女は昇進や自分の評価には関係しないADやTKなどには冷酷そのものだった。
 陰湿なイジメともいえる彼女の部下への接し方は並みの人間の精神では耐えられるものではなかった。
 バイトのADが一日で来なくなったなんてのも良くある。
 桜TVではそんな彼女のことを通称"黒麟"と呼んでいた。
 ―――さっきの自己PRで仕事に関連する人物がいないと分かると、私は地が出てきた。
 こんな状況下でなおかつ目の前で自分が持っていない煙草を吸っている小娘に対する苛立ちが増していく。
 さらに今私の下にいる女ADと顔がかぶり、その気持ちは増幅するばかりだ。
「アンタさぁ、財布も携帯も盗られてんのに何で煙草とライター持ってんのよ」 
 黒住はいつもの、部下のADたちに対する口調で若槻に言った。
「へぇ~アンタ煙草盗られちゃったの?」
 小ばかにしたような返事がすぐに返ってきた。
 ポケットにはライターしかない。多分煙草は自分のデスクの上だ。
 トイレに行くときにそのままおいていった記憶がある。クソッ
「多分ね……」
「ありゃりゃ~そりゃ残念だねぇ~お気の毒にィ」
 若槻がクスクス笑いながら煙草をうまそうに呑んでいる。
 その笑みは傍目煙草さえなければ―――天使のようにかわいらしかったが、黒住にとっては苛立ちを増幅させるクスリにしかならなかった。
 コイツ―――
「ねーちゃん! ワイにも1本だけくれや」
 新渡戸だっけか、関西弁の中年男が割り込む。
「ハァ? いつまでここにいるか分かんないのに誰が油デブになんかやるもんか、死ねよ」
「なっなんやと!? いうにことかいて、礼儀わきまえんかい! 小娘が!!」
 新渡戸の顔が見る見るうちに紅潮していく。
 この小娘に礼儀なんてものはないんだろう。多分、和合とか言う不良のガキも。
「へっ1本1万。これなら請け負うよブタさん」
「―――このガキ!!」
 新渡戸が太った体で若槻に猛突進した。
 それはまるでイノシシのようだった。
「やめんか!!」
 それをまたさっきのように加藤とか言うサラリーが止めに入っている。
 クソッなんでこんなバカ共なんかと―――
 黒住はイライラがつのるばかりだった。

 畜生……なんでこんなことに―――
 幣原高明は焦っていた。
 彼もヘビースモーカーでかなりの煙草好きだ。
 だが彼は若槻たちの輪に加わるつもりはなかった。
 先ほど自分と取っ組み合いをした若槻が自分に煙草などくれないことなど分かりきっていた。
 だが理由はそれだけじゃない。
 ―――本当に何処に言ったんだ?
 アレがひとりでにケースの外に出るわけがない。
 ここで目が覚める前の記憶はあまりないが、アレをケースの外に出した覚えは全くない。
 いや、出すわけがない。間違ってもアレを―――
 とすれば―――
 幣原が辺りを見回した。
 中央付近では何があったのか加藤が新渡戸を抑えている。その周りに若槻、黒住、西村、薮―――
 開かずのドアの左側あたりに固まっているのは雪藤、月島、龍造寺、白州―――
 どうやら、中央の騒ぎに嫌気が差して同年代同士で固まっているらしい。
 俺に年齢が近そうなのは、西村だが―――あんなクズに構っている暇はない。
 若王子と多間木がその中に入り、親しげに何か話している。けっ女たらしが―――
 開かずのドアの右側にあるイスに座って空を眺めているのは高橋―――
 そして部屋の一番奥のボロボロのタンスにもたれ掛かっているのが和合だ。
 誰もアレを持っているようには見えない。
 アレをポケットに入れるなんて不可能だ。
 とすればやっぱり―――
 俺をこんなクズ共と一緒に閉じ込めた、イカれたクソ野郎が奪いやがったんだ!
「クソッタレのサイコ野郎が……」
 狂ったヤツのことをサイコパスというのは幣原も聞いたことがあった。
 医学的には精神病質者のことをサイコパスという。
 精神病質とは、反社会的人格の一種を意味する心理学用語のひとつであり、主に異常心理学や生物学的精神医学などの分 野で扱われている。
 連続強姦殺人犯、シリアルキラーや、重度のストーカー、常習的詐欺師・放火魔、カルトの指導者の多くがサイコパスに属すると考えられている。
 さらに、窃盗や万引き、ドメスティックバイオレンス、幼児虐待、非行少年グループ、資格を剥奪された弁護士・検察官や医師、テロリスト、組織犯罪の構成員、金のためならなんでもやる人間、悪徳実業家なども当てはまることがある。
 狂った人間は意外にも我々の身近にいるものなのである。
 西村が狂ったヤツが仕出かす事じゃないとか言っていたが―――はたしてどうか。
 きっとヤツ自身も狂っているだろう。
 そもそもなんで自分なんだ?
 なんで俺が選ばれた?
 俺はまっとうに生きてきた。
 小中高とトップの成績を収めた。
 受験戦争を乗り越えて見事トップで合格し大学でも気は抜かなかった。
 就職戦争を制して大企業に就職して次は出世戦争だ。
 残業もたくさんした。家に帰れなかったことなんてザラだ。
 遅れず、サボらず、ミスもせず、ゲスな上司にはオベッカだ。
 そんな俺を会社は認めてくれた。
 結果、この年齢で専務にまでのぼりつめた。
 社長にも気に入られていてる。次期社長も夢じゃない。
 こんな俺がなんでこんな社会のクズどもと監獄みたいな場所に押し込められて―――
 こんなバカな話があるか!!
 俺の今まで辿って来た道に汚点なんて何ひとつない。
 何ひとつ……
 そんなことを考えながら幣原は部屋中をかき回していた。
 この部屋にアレは確実にない。
 幣原は悟った。
 この監獄のような部屋をすみずみにわたって探しても何処にもない。
 本当に盗られたんだ。
 こんなところに俺を閉じ込めやがったサイコ野郎に……
「君はあの輪には加わらないのかね」
 突然誰かが幣原に話しかけてきた。
 加藤だ。どうやら騒ぎが収まったらしい。
 中央で新渡戸がぶすっとした顔でしゃがんでなにやらメモ帳みたいなものを広げている。