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調剤薬局ストーリー

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社長の親戚である彼女の計らいで、俺はクビを免れた。



あの事件以来、俺と小枝子は付き合うことになったが、当然、薬局の皆には内緒だ。
でないと、店内の統制がとれないだろうし、サイバーが暴れだしそうだ。
そんなある日、珍しく患者と言い合う高橋の声を聞いて、俺は待合に出た。
すると、そこでは、まだ十代だろうか、俺が哲也とバイクを乗り回していた頃みたいな感じの若者が生意気な態度で口をきいていた。
「うるっせーな!そんなことお前に言われる筋合い無いんだよ!」
聞くと、何かヤバイ薬を買って飲んでいるらしい。それを高橋が咎めたみたいだ。
俺が応対する。
「何の薬飲んでんだ、俺に見せてみろ!」
「お前、何なんだよ!偉そうに。俺は患者だぞ」
「患者だから聞いてんだよ!その辺のガキだったら放っておくんだよ」
チッ、っと舌打ちした彼はポケットから数種類の錠剤の入ったビニールを取り出した。
それを受け取った俺は、そのままそれをゴミ箱に放り込み、そのままその手で思いっきり彼の頬をビンタした。
「死にてぇのか、お前?!」
その場に倒れ、驚いて怯んだ若者は、
「そんなにヤバイ薬ですか?」
と、聞いてきた。
「あぁ、ヤバイ。習慣性がある。こいつを続けていると、そのうち効き目が薄れてきて、その頃にタイミング良くさらに強い薬を薦めてくる。それを飲んだらもう終わりだ。一生、その薬(ヤク)から抜け出せねぇ・・・」
その薬の恐ろしさを理解した若者は俺をまじまじと見つめると、
「ありがとうございました・・・」
と言って、頭を下げた。
俺は間に合った、と、思った。
バイク事故の件で、痛感している。
俺もそうだが、若い頃は無知故に大切なことを何も知らねぇ。
だから、簡単に一生修正のきかない道の踏み外し方をする。そんな、道を踏み外しかけた時には、こうして強く大人の意見を言ってやらなければならない。
何があっても、俺のオヤジの様に強く・・・。
いまのやりとりに小枝子が心配して出てきたが、無事済んだので、俺は素っ気なく調剤室に戻った。
二人の関係がバレては薬局の運営に良くない。
高橋が俺の後を追ってきて調剤室で親しげに話しかけてきた。
「成田君、ありがとう。おかげで助かっちゃった♡」
目にゴミが入ったのか、笑顔でしきりにパチパチしている。
そんな様子を小枝子はガラス越しに寂しく見ていた。

薬局からの帰り、少し離れた公園で、俺は小枝子と待ち合わせをしていた。
しばらくして、彼女がゆっくりと現れた。
そのしょんぼりした様子を見て俺は聞いた。
「元気ないな、なんかあったのか?」
「ううん、別に・・・」
「そんなことないだろ?何でもいいから言ってみろよ」
俺の強い問いかけに彼女は口を開く。
「・・・なんか、高橋さんとのやりとり見てて、こんな年増の私より、高橋さんみたいに若い娘の方があなたにはいいのかな、って思っちゃって・・・」
彼女の、こんな消極的なところが、川田のDVを引き起こしたのかもしれないな、と思いつつも、その中に秘められた年下の俺に対する小枝子の心の葛藤と不安を感じながら、俺は口を開いた。
「俺はアンタの事が好きだ。それは絶対に崩れねぇ。だからもっと自信を持ちな」
「信じていいの・・・」
大きな眼で問いかける彼女に俺はバイクの横から丸いスイカくらいのピンク色のものを取り出した。
「俺が薬局に来る前の日、誕生日だったんだってな。かなり遅くなったけど、俺からの誕生日プレゼントだ」
そう言って、俺は彼女の頭にすっぽりとフルフェイスのヘルメットを被せた。
驚いている彼女をよそに、俺もヘルメットを被り、互いに声はあまり聞こえないので「乗れ!」とだけ合図して、彼女を初めて俺のバイクの後ろに乗せた。
腹にしがみつく小枝子の細い腕を確認すると、俺は湾岸目指して一気にアクセルをふかした。
吹きつける風圧が気持ちいい。
俺は振りかえって叫ぶ。
「どうだ!」
小枝子が耳元で叫んだ。
「最高ー!!」
ご機嫌な俺たちを乗せたバイクは更に加速した。
灯りだした大都会のネオンは俺と小枝子を呑み込んでいく。



ある日、ホテルを出た俺たちは、空腹を満たすために夜中の牛丼屋に入った。
並んでカウンターに腰をおろす。
「決まったか?」
「ううん、秀ちゃんと同じのでいい」
うつむき加減に小枝子が答える。
「そうか・・・」
カウンターの内側を回遊する店員に俺は声を掛けた。
「大盛りつゆダク味噌汁と並つゆダク味噌汁」
その注文を素早く書き留めた店員は奥へと消えていった。
「秀ちゃん、いま何を頼んだの?!」
小枝子が驚いた感じで小声で聞いてくる。
「何って牛丼じゃねぇかよ。俺は大盛りだけど、小枝子のは普通にしといたぞ」
「えっ、どうやって?!」
聞くと、小枝子は生まれて初めて牛丼屋に入ったらしい。
どうりで、さっきから落ち着かない様子なのかと俺は理解した。
俺は彼女に、牛丼屋の符牒(注文の略語)を教えてやった。
「ナットウ、牛シャケけんちん、ダクダク、アイガケ、・・・」
小枝子は驚きつつも、楽しそうにそれを聞いていた。
牛丼が運ばれてくると、こんどはその食べ方の説明だ。
紅ショウガはここ、七味はここで、俺は七味を牛丼と味噌汁に掛ける。箸はここで、・・・初めての小枝子は何でも楽しそうだ。
本来なら十分もいない牛丼屋に結構長居した。
店を出ると、空が明るみだしていた。
「急いで帰らなくっちゃ」
そんな小枝子の言葉を寂しい感じで受け止めたおれは、「そうだな」と言って、彼女を店の前に待たせ、バイクを取りに行った。
バイクに向かうと、その陰に三人のガキどもがたむろしていた。
俺は無視してエンジンをかけようとすると、その中のひとりが
「兄さん、金貸してくれねぇかな?デート代余ってるんだろ?」
と言ってきた。
気にせずにキーでロックを外し、手でバイクを移動させると、無視されたガキが後方で吠えてきた。
「無視してんじゃねぇーぞっ!!」
振り返ると三人立ちあがっている。
俺は更に無視してバイクを立て、ヘルメットを取ろうとした。
「コノヤロウ!」
一人が殴りかかってきた。
バイク脇のフックからヘルメットを外すと、そのままそれで、そいつの顔面をブチかました。すかさず他の二人も掛ってきた。
そのまま乱闘になった。
三人相手にどう闘ったか覚えていない。
とりあえずサイレンの音で倒れているガキ以外は逃げたので事が納まった。
遅い俺を不思議に思って見に来た小枝子が警察に携帯電話をしたのだった。
近くの警察署で職務質問と軽い注意を受けて、俺と小枝子はそこを出た。
特に会話も無く、駐車場のバイクまでゆっくりと歩く。
「・・・悪かったな」
よく分からないが、心配と迷惑をかけちまった彼女に俺は謝った。
人に謝ったのは何年振りだろう・・・哲也の母さんに謝って以来かもしれない。
大きく息を吸って吐いた小枝子は俺に向き直ると、優しく言った。
「もう、子供なんだから・・・」
不服気味に見返した俺の眉尻のキズを彼女が指で弾いた。
「いてっ!」
「さあ、急いで帰ってキズの手当てしましょ」
そう言って小枝子は小走りに俺の前を歩き出す。
俺もその後を追う。
そして思った。
俺は子供なのだろうか・・・。
作品名:調剤薬局ストーリー 作家名:山村憲司