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表と裏の狭間には 番外編―後日談―

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あの後、私たちは、通りがかったタクシーに乗せてもらい、病院へ戻った。
タクシーに乗っても泣き続けるレンのことに、運転手は全く触れなかった。
ただ、さり気なく、料金も取らずにどこかへ行ってしまった。
その気遣いに感謝しつつ、どうにかレンを病室に戻した。
お医者さんからは結構怒られた。
かなり心配だったが、傷口が開くとかそういうこともなく。
しばらくして、レンは退院した。

レンが退院したのは卒業式の後だった。
卒業式は、テロが終わってから、数日後に開かれた。
私も出席したが……ゆりさんと煌さんの二人は、いなかった。
そして、夏が近づいてきた今となっても。
お兄ちゃんは、皆は、帰ってこない。

ボクは自分が実は人気者だったことを自覚させられた。
人気者、というのは少し違うか。
ただ、多くの男子から好意を寄せられていたことに気付かされた。
退院した後は、普通に学校に通っている。
この学校も、人数が減ってしまった。
というのも、例のテロ事件の際、この高校の生徒の中にも何人か組織に関わっていた者がいたようだ。
警察に逮捕されたから、必然としてこちらへは出て来れないようだ。
ボクが学校を休んでいた理由は、病気で通してある。
学校は、春ごろはテロの話題で持ちきりだったが、夏も近くなると、その話題も薄れてきた。
そして、ボクの傍にいつもいた、紫苑が消えた。

紫苑がボクの傍にいないことは、ボクの友人にとって異様だったらしい。
新しい学年でも同じクラスになった、伊藤さんが言っていた。
「紫苑君はどうしたの?」
ボクは、自分でも分かっていないことを、どう説明しようか悩んだが……。
「ああ、いいよ、言わなくても。」
という、伊藤さんの言葉に、救われたのだった。
だが、伊藤さんは、その後にこうも警告した。
「気をつけたほうがいいよ。君を狙ってる子、沢山いるから。」
その時は、どういう意味か分からなかったが……。

彼らは、ボクに紫苑という『ナイト』がいたから寄ってこなかっただけらしい。
紫苑を見かけなくなった今、チャンスとだと思ったのだろうか。
代わる代わるにやってきては、ボクに想いを告げていく。
彼らは、どうやらボクと紫苑が喧嘩別れをしたとでも思っているらしい。
『俺が幸せにしてやるから』とか『俺が傍にいてやるから落ち込むな』みたいなことを告げていく者までいる。
ボクにとって、これはかなりキツかった。
影では、紫苑にかんする悪い噂が広まっていた。
紫苑は、ボクを捨ててどこかへ逃げたのだ、とか。
ボクに無理やり手を出した挙句、どこかへ消えたのだ、とか。
憶測は憶測を呼び、紫苑が悪者であればあるほど都合のいい男たちによって、噂として広まって行く。
また、ボクのほうにもなにやらレッテルが貼られたらしい。
『可哀相な被害者』というレッテルが。
紫苑に滅茶苦茶にされた挙句捨てられた、可哀相な女。それがボク、ということらしかった。
高校生の妄想力と伝達力には呆れを通り越して関心する。
とにかく。
ボクは男子から見て『好み』だったらしい。
ボクが学校に復帰して一ヶ月は何事もなかったが、一ヶ月ずっと紫苑がいないと、ボクと紫苑が別れたと判断した男子が、ボクに言い寄るようになった。
まず一人。次に一人。その次がまた。
ボクは、当然、全員を袖にするのだが。
我も我もと、続々とやってくるのだ。
おかげで、随分とボクの心は痛んだ。
紫苑が、いないことを、自覚させられるのだから。
これは、自慢話などでは断じてない。
ボクには、紫苑という既に決まった人がいるのだから、告白など、困るだけなのだ。
それに、断らなくてはならないことが確定した時点で、告白されること事態がディスアドバンテージになりつつあった。
女子の間でも、ボクは煙たがられるようになっていった。
『私たちの憧れの男子に次々と告白されておきながら、その全員をふった女』というのが、女子から見たボクらしい。
逆恨みもいいところだ。
ボクに忠告をしてくれた伊藤さんも、伊藤さんの好きな男子がボクに告白し、それをボクがふったのを知った途端、ボクには近づかなくなってしまった。
だが、学校生活が、楽しくなくなってしまったのもまた、現実だった。

Episode 3:再び動き出す日常

「ただいまー。」
「あ、おかえりー。」
少女が玄関に入ると、キッチンのほうから別の少女の声が聞こえてくる。
光坂にある大きな家。
そこはかつて、九人もの少年少女が住んでいた一風変わった家だったが、今では二人の少女が住んでいるだけである。
「今夜は何?」
「えへへ。今夜はカレーだよー。」
家族を失っても、彼女たちは、日々を笑顔で過ごしていた。
春先にあったテロ事件から、半年が経とうとしていた。
季節は秋。
忍び寄る冬の足音は、例年よりも大きく響くようだ。
そんな中、二人の少女は、今日も今日とて食事の準備をしていた。
「レン、今日は大丈夫だった?」
「雫は心配しすぎだよ。ボクは別に虐められてるわけじゃないんだから。」
家族は減ったが、それでも家族はいる。
家族がいれば、彼女たちの日常は、何度でも動き出すのだ。

今となっても、酒を飲む癖は抜けない。ボクは、時々このバーにやってきて酒を飲む。
飲まないと、やってられないとでも言うのだろうか。
今となっては、学校生活は、完全に苦痛となっていた。
半年という時の流れの中で、ボクの肩書きは、『可哀相な被害者』から『嫌な感じの邪魔者』に、完全に書き換わっていた。
高校三年生、秋。
進路に関する問題もあった。
まあ、そっちのほうは、地元に就職ということでどうにかなったのだが。
それでもだ。
今となっては、ボクは完全に孤立してしまっていた。
男子からは『誰が告白しても全部断る嫌な奴』女子からは『憧れの男子をふった嫌な奴』と思われているのだ。
ボクが深い付き合いをしていたのは、『家族』だけだったから。
学校では、そこまで親しい友達はいないのだ。
だからこその、孤立無援だった。
雫とは、学校でもよく、一緒にお昼を食べたりもしているのだけれど。
今となっては、雫のほうにも影響が出ないか心配だった。
その現実に押し潰されそうになると、ここで酒を飲んでいる。
「……………紫苑。」
どうしても、その名前が口から出る。
グラスを傍らに置き、テーブルに突っ伏して、ただただ、名前を呼ぶ。
「紫苑……君はどこにいるんだ……?どうしてボクを助けてくれないんだ………。」
分かっている。
紫苑には、何かするべきことがあるのだ。
だから、ここには帰って来れない。
ボクのことは、ボクがどうにかするしかないのだ。
それでも。
「紫苑………寂しいよ………戻ってきてよ…………。」
机が濡れていく。
グラスを倒したわけではない。
分かっているのだ。
ボクよりも、雫のほうがよっぽど辛いのだと。
雫にとって、紫苑は唯一の肉親なのだから。
血を分けた、兄妹。
ボクよりも、よっぽど辛いはずなのだから。
でも。
分かっていても、それは関係のないことだった。
寂しいものは、寂しいのだ。
…………やっぱり、ボクはダメだ。
「……紫苑。どこへ行った………君がいないと……ボクはこんなにも弱い………。」
バーの中で、静かに泣いてしまう。