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表と裏の狭間には 番外編―後日談―

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Episode 1:事件後の日本

年度末に起こったある事件。
それは、日本全土に大きな混乱を引き起こした。
日本全土で発生した事件。
それは、二つのテロ組織がぶつかり合ったものだ。
と、公式には言われている。
二つのテロ組織が、日本各地を舞台に、大規模な抗争を行ったのだ。
それは、規模としては『抗争』ではなく『紛争』と称しても問題ないレベルであった。
そのせいで警察機関は初動が遅れ、民間人にも被害者が出た。
自衛隊と協力して動き出した後は、順調に各地の抗争を制圧していった。
そして、事件発生の二日後、二つのテログループの全員を逮捕した。
ただし、あまりにも強力な抵抗だったため、やむを得ず死者を出したが。
それでも、テロ事件ということもあり、国民の目はそちらのほうへは向かなかった。
それよりも、重大な問題があったのだ。
警察がテログループから応酬した膨大な量の資料、その中に、現代日本の政界を大いに揺るがすものが含まれていたのだ。
一つは、各暴力団の密売ルート。
もう一つは、各暴力団の顧客データ。
一斉検挙に至ったテログループの片方、『アーク』と名乗っていたグループの持っていた資料からは、それらの膨大なデータが入手されたのだ。
これにより、長らく謎とされていた、暴力団の密売ルートが明らかになった。
また、それによって、多くの政治家の汚職が明らかになった。
現国会議員の半数以上が検挙される事態にまで発展。
当然のことながら、内閣は総辞職に追い込まれた。
また、暴力団の資料が押収されたという事は、つまり、警察が今まで掴めていなかった諸々の証拠が挙がったということで。
警察は、暴力団の一斉検挙にも追われることとなった。
また、東京湾で客船が沈没したことも問題となった。
政府の公式発表によると、二つあるうちの一つのテロ組織『ノヴァ』は、その本拠地を東京湾に停泊していた客船に置いていて、その乗員を逮捕しようとしたところ、船は自爆、沈没したということだ。
沈没する前、自衛隊のヘリが客船の周囲を飛び回っていたのが目撃されているが、それは偵察だと発表された。
更に、地方行政のほうにも混沌の波紋は広がった。
というのも、発見されたテロ組織の施設は、主要なもののほとんどが市街地にあったのだ。
今回の抗争のほとんどが市街地で発生したのも、それが原因と見られる。
発見された施設のあった都市のほとんどが、十数年前の『再開発ブーム』の折に完成したニュータウンだったということもあり、テロ組織によるブームそのものへの干渉も懸念された。
これを受け、地方行政は、例外なく街の再開発に追われることとなる。
日本が大混乱に陥る中、アークの存在を否定し続けていた警察に非難が集中した。
不確かな情報を提供し続けていた警察は、何らかの責任をとる必要があった。
警視総監野々宮は、そんな背景も踏まえた上で、当初の予定通り、総監職を辞した。
その後は、自宅で隠居生活を送っているようだ。
………七人の、子供たちと共に。

Episode 2:残された家族

日本中で大きな事件があった日、私は、家で皆の帰りを待っていた。
この光坂でも大きな騒ぎがあったようで、しかもそれはまだ終わっていないらしい。
夜中になり、日付が変わり、日の出が迫り、朝日が昇っても、サイレンの音は鳴り止まなかった。
そして、朝日が昇り、闇夜が地球の裏側に追いやられても。

お兄ちゃんたちは、帰ってこなかった。

朝のニュースは、依然として事件の様子を語っている。
昨日から続く各地の戦闘は未だ終結しておらず、危険な状態が続いている。
内閣では、正式にテロ事件として、自衛隊の本格投入を決めたらしい。
そんな、政府と警察の発表だけが、更新されて行く。
当然、今日の卒業式は中止になった。
そして昼。
私は、眠気と不安でグラグラする頭を抱えて、病院へ向かった。

街を出歩く人は、ほとんどいない。
それもそうだ。
遠くから、銃声とサイレンの音が聞こえる。
ボーっとした頭で、『銃声ってこんな音なんだな』とぼんやり考えながら歩く。
街の中央にある総合病院。
そこには、私と同じように、家族の帰りを待ち侘びるレンがいる。
私は、このことを、レンに報告するべきか否か迷っていた。

病室についた。
礼儀として、ノックをする。
「どうぞー。」
そんな、レンの明るい声が返ってくる。
その声を聞いて、私は扉を開けた。
「やあ、雫じゃない………なにがあった?」
扉を開けた次の瞬間には、レンは明るい笑顔で元気に挨拶をしようとしてくれた。だけど、すぐに笑顔は引っ込み、真顔で尋ねてきた。
私の顔に、全部出ているらしい。
「……自分の顔、鏡で見ろよ。その隈はなんだい?髪の毛もボサボサじゃないか。服も昨日と変わっていない。それに、そんなに泣いてちゃ、誰だって分かるよ。」
言われて気がついた。
どうやら、私は泣いていたようだ。
頬に手を当てると、静かに流れる水流が手を濡らす。
自分の体に目を向けると、昨日と寸分違わず同じ服を着ている。
自覚すると、瞼が重い。
どうやら、私は思っていたよりも、大きなショックを抱えてしまったようだ。
「話せよ。聞くからさ。」
レンは、ベッド脇の椅子を勧めた。
ショックを自覚してしまった私は、誰かに話したい衝動に逆らえなかった。
「お兄ちゃんが………!」
話した。
お兄ちゃんが帰ってこないこと。他の皆も帰ってこないこと。
「…………!――痛ゥ!」
それを聞いた瞬間、レンは体を動かし……痛みに呻いた。
「レン!?そんな動いちゃダメだよ!!」
「もう体は大丈夫なんだ……それより、紫苑を、探さないと…………!!」
「落ち着いてよレン!まだお兄ちゃんたちが消えたと決まったわけじゃ――」
言ってしまって、しまった、と思った。
そして、自分自身に愕然とした。
お兄ちゃんが、消える。
消える?
死ぬ?
お兄ちゃんが、死ぬ?
私は、何を考えていたのだ?
そんなこと、あるわけないのに。
どうして、私はそんな事を考えていたのだ?
「――――――ッ!!」
私がそんな自己嫌悪に陥っている隙に、レンは病室を飛び出してしまった。
「待ってレン!!外はまだ危ないの!!」
慌てて、その背中を追う。
入院中とは思えない動きで、そのまま外へ出て行く。
受付の看護師さんも、呆然としていた。
今は三月末。
病院の部屋着だけでは、風邪をひいてしまう。
でも、レンはそんなことには構わず、街を駆ける。
「――――紫苑!!どこにいるんだよ紫苑!!」
「ま………待ってよレン!ちょっと待ってってば!!」
まだ肌寒い風の吹く街中を、私たちは駆ける。
街に人がいないのが幸いだった。
人がいたならば、私たち――特にレンは奇異の目で見られていただろう。
「紫苑!紫苑ッ!!どこだよ紫苑!?答えてよ!!」
とうとう、走りつかれたレンは、そのまま道にへたり込んでしまった。
そのまま俯き、泣き出してしまう。
「紫苑………紫苑………紫苑紫苑紫苑紫苑………!どこだよ……どこにいるんだよ………!!」
私は、息を切らしながら、そんな背中を見つめていた。

偶然タクシーが通りがかってくれて助かった。