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アイ・ラブ桐生 第一部 7~8

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 こいつがあらわれるのは、いつもだしぬけで突然です。
しかも、赤い下駄の片方だけを手に持って、片方の足だけが裸足です。
乱れかける浴衣の前をもう一方の手で押さえながら、
泣きじゃくっているような雰囲気が有りました。
(何が有ったんだろう・・・・今回は)


 なにやら様子が、いつもとは大違いです。

 しおれたように歩いていたレイコが、やがて立ち止まりました。
一度だけ後ろを振り返りましたが、誰も追ってこないことを確認すると
あきらめたように、ポンと下駄を投げ捨てて、両方のこぶしで目がしらをぬぐいます。
手のひらで足の裏を叩いてから、フンと小鼻を鳴らし、
転んでいる下駄を乱暴につっかけました。
肩で大きく息を吐き出してから、もう一度両方の目尻をぬぐい、
再び、トボトボと歩道を歩きはじめました。
こちらとすれ違ったというのに、レイコは、まったく気がつきません。


 「?・・・」

 いつものレイコと何かが違っていたのですが、
たった今、すれ違ったその瞬間に、それに初めて気がつきました。
いつもより、ずいぶんと髪が短くなっていました。
(へぇ~ショートの髪にしたんだ・・あのレイコが)
幼いころから長い髪が大好きで、よく手入れをしていたレイコとはまるで、別人でした。
それでもある意味、初めてみるレイコの短い髪も新鮮でした。

 こちらから声をかけようとしたら、
今度は、崩れ落ちるように、その場へ座りこんでしまいました。
どうした? ・・・・なにが有ったんだ、お前。

 とにかく人ごみを避けて、
馴染みの喫茶店まで引っ張り込むまでが、大変でした。

 「なんで、こんなところに、あんたがいるのさ。」


 ・・・それは、こっちが聞きたいくらいです。
ようやく落ち着きをみせたかと思えば、また突然泣きじゃくって、大暴れをします。
・・・・おいおい、暴れるなよ、浴衣が大変なことになる。

 やがて疲れきり力も抜けたのか、、レイコが座席に座って悄然とします。
最初に頼んでおいた私のホットコーヒーは、口をつける暇もなかったために、
すっかりと冷めきっていました。
覚悟を決めて一気に口に含んだものの、それはまるで、
出来損ないのアイスコーヒー、そのものです。


 「それで・・なにが有ったんだよ、裸足で歩くなんて?」

 「大きなお世話!。」

 また、元気にさせてしまいました。
これ以上、相手にしてはさらに面倒になると思い、
タバコが空になったのをきっかけに、立ちあがるとカウンターへ移動しました。
パイプをふかして暇そうなマスターへ、ウイスキーのダブルと煙草を頼み、
それを待っている間に、少しだけの立ち話が始まりました。

 気になってチラリと振り返った時には、
レイコの姿は座席には見えず、いつのまにか私の視界から消えていました。
お手洗いか何かだろう・・・・くらいに受け止めました。
ところがレイコは、突然私の背中越しに現れると、あっと思う間もなく、
かすめ取るようにして、グラスわし掴みにしてしまいます。
おい、それはウイスキーのダブルだぞ・・・・

 「おかわり!」

 一気にあおったあげく、空になったグラスを、
ドン!と勢いよくカウンターの上へ、割れんばかりに叩き置きました。
「何杯飲んで構わないが、とりあえずこれ以上、訳も解らずに、荒れるのだけは
勘弁してくれ)と頼み込むと、案外、素直にレイコが頷きます。

 唇に着いたアルコールを、私から奪い取ったおしぼりでふき取ってから、
いままでにないほどの、低い声で、
「そうするから、ひとつだけ、私の頼みを聞いて」とつぶやき始めました。
少しだけ、 嫌な予感はしたのですが・・・やはり、いつものように、

 「今から、海が見たい」と言いだしました。

 「は!・・・・?」

 今夜は、桐生の町全部がうかれきっている、祭りの真最中です。
これから本町通りでは、祭りのメインでもある八木節の競演会がはじまります。
しかしレイコは、そんなことには全く興味がありません。
早くこんな縁起の悪い浴衣なんかは脱ぎすてて、
八木節もたった今から大嫌いになったから、こんな町からは、
一刻も早く抜け出したいと、即座にその場で、言い切ってしまいました。

「誰もいない海が見たいから連れて行け。」


 と、その一点張りを繰り返しています・・・・

 それはいいけれど、手元に着替えさえもないままでは、
どうすることもできないだろうと、反論したら

「親友のM子に頼むから、そんなことなら、即、大丈夫。」

と電話をかけるために、よろめきながら立ちあがりました。
(M子は、私の初恋のお相手です・・・・)


 それ以上の反論などを、考えつく暇がありません。
電話を終えたレイコは、席へ戻って来たとたんに、人の腕をつかみました。
話は全てついたから、さあ、心おきなく出掛けましょう!と、
ついさっきまで泣いていたカラスは、
あっというまに笑い始めてしまいました・・・・


(8)へつづく