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はるかぜ

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01ああ、忘れていた。自己紹介




君は普通の人というのはどうゆうものだと思う?
とりたて変わったところのない、どこにでもいるような人を普通という。
でもそれは個人が考えた「普通」の意味、「普通」の定義だと思うんだ。
極端な話をしよう。もし目の前にすごく変な人がいるとしよう。
でもその人が周囲に興味がなかったら、己が普通だと考えるかもしれない。
別にみんなが変わった人だとは言わない。僕は正に極端な話をした。
ただ僕が人を見る時、この人は普通だと思った人に出会ったことがない。
それだけの話だったのさ。


僕の名前は如月摂理。
上のように変なところでひっかかって考え込む癖のある大学生だ。
でも思考に耽るくらい、実害にならないからまあ良しとして貰おう。
個人的にいえばそうだね、普通の大学生だと思っているよ。


ここで僕がするのは、まあなんというか日常の話だ。主に僕の可愛い後輩の話だ。
下ネタもあるので苦手な方はご容赦を。ああ、既にしてるかそれは失敬。
それでは題名もああなっていることだし、相手の自己紹介でしておこうか。



彼の名前は京極龍彦。京極堂だぁ!と騒いだら何故か露骨に嫌そうな顔をされた。
嫌な思い出でもあるのかな。今度閨にでもきいてみようかな。


彼は僕と同じ大学に入ってきた新入生だった。
春恒例のサークル部員募集で声掛けをしている時に、彼は丁度僕の前を通りかかった。
特に派手さもないけれど、パーツの一つ一つが整った綺麗な顔立ちをしていると思った。
でも瞳は濁って見えた。
何かを見ているようで目の前は何も見ていないような。
眼力はとても強くて、切れ長で鋭い。平衡がとれていなくてとてもアンバランスな感じ。
彼が抱えている陰鬱な雰囲気は僕はとっても好みだった。
僕は元々サークルには属していないけど、友人が入っていたのでその手伝いをしていたのだ。
ジャズ同好会の友人はさっそく彼に話しかけて、今晩自由参加制のコンパがあることが書かれたチラシを押し付けていた。
大学サークル勧誘は嵐に近い。始終無表情だった彼はチラシだけ受け取って通り過ぎて行った。戻ってきた友人が思い出したように聞く。
「なあ、如月は参加するか」
僕は少し考えた。特別予定があるわけでないし、今日はバイトもない。
「うん。参加しようかな。適当に抜けるかもしれないけど」


新入生の歓迎会と称して開かれたサークルコンパに彼の姿はあった。
はっきり言ってかなり浮いていた。
彼の髪は銀色っぽいのに加えてやや長い。
顔立ちや佇まいだけで、一匹狼の気質が初対面の人間でも見抜けるくらいひしひしと伝わってきた。
見た目がかなりいいのが逆に残念だった。何度か女の子たちがアタックをかけていたが撃沈していた。
理由をきいてみると、話が通じないらしい。なにそれ外国人。
そういえば髪色といいあんまり日本人ぽくないかもと思った。後に本人にいうと少し落ち込んでたけど。
だんだん人が集まってきて、そろそろ開会式の挨拶を始めようという頃に彼は部屋から出て行った。
肌が合わないと判断したのかもしれない。
出ていく背中をなんとなく眺めながら、僕は既に貰っていたオレンジジュースのコップを回してみた。
座っていた椅子から立ち上がった。
「結城、悪いけど抜けるね」
祭りの喧騒に包まれた部屋で、友人に聞こえたかは定かでなかったけど、僕は早歩きで部屋を出た。



サークル棟が並んでいる建物から出ると、外はすっかり真っ暗だった。
どこかの部屋からテンションの高い音楽と、男の吠えるような声が聞こえてきた。
皆さん青春していて実によろしい。
パタパタと建物に反響する自分の足音を聞きながら走る。
探し人はすぐに見つかった。
大学出口に向かう坂道に立ち並ぶクスノキの木の傍を通り過ぎていく途中だった。

困ったのは声掛け。
だってなんて言うのか。ちょっと一杯やらないか、とか。
駄目だ。ただの相手の欲しいアル中先輩になる。
でもこの際それでもいいか。そんなことをつらつら考えていると、彼は振り返った。
走ってくる足音に、自然と振り向いてくれたのだ。
両手をポケットに突っ込んでちらりと振り返るしぐささえ、なんだか愛おしく思えた。
口元が笑ってしまっていたのか、彼は不思議そうな顔をした。

「どうして笑っているんですか」
言いにくかった第一声目を彼がかけてくれた。
気を良くして僕は正直に応えた。
「君が可愛らしいからだよ」

言ってしまった言葉に、相手の動きがちょっと止まった。
ひかれたかもしれない。そうだとしても相手に非はないけど。
「・・・そう言われたのは初めてですね」
「そうだね。僕より随分と背が高いし、普通ならかっこいいかな。でも僕から見るとなんだか微笑ましい」
歯に衣を着せずすらすらというと、彼は肩を竦めた。
「褒められているととっても?」
「勿論、少ない語彙で賛美しているつもりだよ」
「変な人ですね」
「よく言われるよ」
事実を述べて、今度はこちらが肩を竦めた。
「変ついでにあと二つほどいいかな」
「ええ。今更言葉の制御を強いるつもりはありません」
一緒に並んで出口の方に向かって歩いていく。
「ありがとう。君の名前は」
「龍彦っていいます。呼び捨てで構いません」
「おおっ。いきなり親密な感じ。僕は摂理っていう」
「変な名前ですね」
「変人でも変々って連呼されたら傷つくからね。今日ひとつ賢くなったね」
「はいわかりました、摂理さん。もうひとつは」
「今日サークルの呼び込みですれ違った時、僕のこと見ていた気がして」
坂道に吹いた夜風に木々がざわめき、枝同士がぶつかり揺れる。
暗い夜道で見上げた彼の表情は凪いでいた。
しかし薄い唇は耐え切れなくなったように、唇を歪めて笑みを作る。
舌舐りが聞こえてきそうな露骨な表情に背筋がヒヤリと冷たくなった。
「ええ、見ていました。さっきの集まりもそれが目的で行きました、と言ったらどうします?」
「・・・話が上手過ぎてちょっと警戒する、かな」
「ひどいな。こちらは追ってきてくれて、喜んでいるのを隠すのに苦心してたのに」
「だってすごく雄臭い顔をしているよ」
さっきまで装っていた無表情が反転し、露わになったのは楽しくて仕方がないというような顔。
鈍く光る瞳には単純な喜悦というより、気狂いに近い危険な色が宿っているように見えるのは気のせいだろうか反語。
後輩はポケットに手を突っ込んだまま息を零す。
「貴方はあまり隠し事を好むタイプではないようだ。だから晒そうかと思って。だから逃げるも拒絶するも好きにして下さい」
真正面から僕を見下ろす瞳に冗談の類は見当たらない。ただただ肌が粟立ちそうなくらい異常な執着が見て取れた。
目を逸らすのも負けた気がして嫌だったので、呆れたように鼻を鳴らす。
「逃げるって。僕は君に興味があって会いにきたんだからそれはないけど。でも逃がす気もなさそうだよね。拒絶したらどうする」
「跪いて許しを乞います」
「は?」
「謝罪の形が見たいというなら土下座もしますけど」
「はい?」
疑問符を飛ばしていると相手は片膝をつきはじめた。僕は悲鳴を上げた。本当だ話が通じない。
「まってまって両膝とかつかないでここ砂利道だから!」
作品名:はるかぜ 作家名:ヨル