アイ・ラブ桐生 第一章 4~6
はじまった!
万一の場合は、いち早く立ち去れ、がデモ行進の鉄則です。
同じ方向に固まることなく、四散すべきこと。
露地や建物内にいち早くまぎれこむべし、
ゼッケンや腕章は、迷うことなく廃棄すべし、などなど等々・・・・
前夜の打ち合わせを思い出しながら、いち早く、その場を立ち去りました。
「安全第一、蛮行は勇気に有らず。勇気を持って撤退せよ。」
それらを、呪文のよう頭の中で繰り返しました。
ようやく冷静になったときには、
慨に地下鉄の切符売機の前に立っていました。
動転するといいますが、想像を絶した光景を目の前にした時には、
人は頭の中が、本当に真っ白になるという事実を、
産まれて初めて体験をしました。
ほっと一息ついた瞬間、背中に、どん!と人がぶつかりました。
驚いて振り返ると・・・レイコが、私の背中で息を切らせたまま、
肩を震わせて立ちすくんでいました。
「ずぅ~と、後を追いかけてきたのに・・」
レイコの顔が真近に迫ってきました。
涙があふれそうになっているその両方の目で私をじぃっと、
見つめてきます。
今日は、なんとも初体験の多い日です・・・・
こんなにも至近距離で、涙目の女性に見つめられてしまうのも、
私には、まったく初めての体験でした。
(6)へつづく
作品名:アイ・ラブ桐生 第一章 4~6 作家名:落合順平