アイ・ラブ桐生 第一章 4~6
もう一度、前方へ目をやると
原色のヘルメットに、白いタオルで顔覆う一団が角棒などを振りあげて、
気勢をあげているのが見えました。
しかし遠すぎてヘルメットに、書いてある文字までは読み取れません。
「革マルかな・・、それとも中核の連中か。
まさか、連合赤軍じゃないよなぁ。」
「馬鹿言え。
連合赤軍なら、連中なら今ごろは国外だ。」
「三里塚か、成田にかかわる極左勢力のゲバ学生たちかな・・・」
「さぁなあ~。
いずれにしても、排除はできないからな。
とりあえず、今日は安保反対が第一条件の政治集会だ。
でも油断をするな、今日は注意しろ。
あいつらが・・・・
ああいう連中が顔を出すと、いつもろくな事がない。」
そういい残した彼は、
出発を前にして、身支度と準備で騒然とする人ごみの中へ
「じゃあ、また後で」と、大きく手を振りながら消えて行きました。
今日は平和的に、安保の反対集会を開くだけで、
あとはそのまま、国会への反対陳情のデモ行進をするだけの予定でした。
動き出そうとする隊列の中で、遅れていた身支度を整えました。
北関東の3県が中心で、学生と社会人たちの連合による
デモ行進の隊列は、少し遅れてようやく動き始めました。
国会を取り囲む陳情と抗議のデモ行進のために、
全国各地をいくつかのブロックに分けて、その動員が繰り返されました。
過激派学生や、暴力を信条とする極左勢力とは、
今回の集会は無縁のはずでした。
しかし国が政治的に切羽詰まり、政局が大きく揺れてくると、
彼らもまた、どこからともなく現れてそうした集結をしてきます。
いまだに、政治的行動的な場に置いて、
彼らはその存在を誇示するのです。
荒れなければいいが・・
そう思いながら公園を出ると、デモの隊列は道いっぱいに広がります。
国会議事堂をめざして、一斉に前進をはじめました。
さすがに通りへ出ると、
両脇を隙間なく、機動隊員が整然とならんでいました。
制服と呼ばれる乱闘服に身を包んで、ジュラルミンの盾を構え、
手には、特別仕様の警棒が握られています。
体格はすこぶる良く、さすがに選らびぬかれた
精鋭たちだけのことはありました。
その威圧感ぶりには、思わず身震いを覚えるほど、
圧倒されるものがあります。
議事堂が近づくにつれて、
さらに機動隊による警護の陣形は厚みを増します。
二重三重にも重なる、厚みのある機動隊の人垣へ変わっていきます。
その背後には、窓ガラスを金網で覆った装甲車が幾重にも
見えてくるようになりました。
いつもより、多いよなあ・・機動隊の連中が。
そんなささやき声も、聞こえてきます。
前方が突然ざわつきはじめました。
前後、左右に揺れ出した人の波が、
あっというまに雪崩となって、時計回りに渦を巻きはじめました。
それはデモで禁止とされている、挑発的な渦巻きの行進でした。
初めて目のあたりに見る光景です。
テレビでは見ましたが実際に見るのは今回が、
まったくの初めてのことです。
大きな怒号と歓声が上がる中で、機動隊とデモ隊が激しく入り乱れます。
もみくちゃの騒動が始まってしまいました。
デモの隊列は完全に停止をして、参加者が四散を始めました。
作品名:アイ・ラブ桐生 第一章 4~6 作家名:落合順平