アイ・ラブ桐生 第一章 4~6
最短のルートは、市内南西部に停車駅を持ち、
赤城山の登山道へと続く終点の大間々駅と始発の浅草を結ぶ、
私鉄の東武浅草線です。
時刻表を見ると、次のロマンスカ―(急行)には間にあいそうです。
ロマンス・カ―は、ほぼ1時間に1本の割合で運航をされていました。
浅草までは約2時間余の急行電車です。
集会には間にあわないものの、デモ行進が始まる時間には
会場入りができそうでした。
じゃあ、行くか・・
でも、あいつはどうしたんだろぅ。
そう思いつつ車を走らせて、東武線・新桐生駅へといそぎました。
ようやく会場に到着した時は、すでに集会は終了していました。
デモ隊は、その隊列を整えながら出発の合図を待っているところです。
全体集会の会場となった公園には、
まだ余韻を引きずるどよめきがありました。
前回の時よりも参加者が増えています。
見た目にも倍ちかい人数で、おそらく5000人は越えているかもしれません。
のぼり旗が風にはためいて、ゼッケンや横断幕も
はるかに数が増えていました。
「安保」の自動延長日を直前にして、拒否権さえ発動すれば、
今度こそ廃棄ができるというわずかな可能性も生まれてきたために、
反対の声がようやく高まってきました。
とりあえずは、地元勢と合流しなければなりません。
群馬・栃木・茨城の北関東の3県連合のはずなので、
たぶん中団あたりにいるはずと目星をつけて探していたら、
すぐに見つけることができました。
それはかつて、「あかつき特別行動隊」とも呼ばれ、少人数ながらも、
極左の過激派たちとも互角にわたりあった経歴を持つ、
勇猛の名残を持った、学生たちのオレンジ・カラーの一団です。
街頭宣伝活動の開始の時から身につけてきた、オレンジ色のヤッケは、
人ごみの中でも、やはり特別に目立ちました。
手を振りながら人ごみを懸け分けて行くと、顔馴染みの学生が向こうから
「よおっ!」とひと声かけながら近寄ってきました。
デモ行進で必需品の、鉢巻きとゼッケン、腕章がヤッケとともに、
乱暴に手渡されました。
「前の方が何やら殺気立ってるみたいだ。
なにやら、ずいぶんと騒がしいようだけど。」
「招かざる客だ。」
作品名:アイ・ラブ桐生 第一章 4~6 作家名:落合順平