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20日間のシンデレラ 第4話 何にも焦ることなんかない

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翔 太  「ちょっとね」

男子生徒 「遅刻しといてよく言うぜ」

にやにや笑う男子生徒。       

翔 太  「ごめん、朝から人とぶつかっちゃってさ」

男子生徒 「ふーん、あっ! また授業さぼって変なもん描いてやがる。 ところでこの恐竜なんなんだ? 確か前も描いてたよな?」

翔太のノートには陸の絵本と同じ恐竜が。

やさしい笑顔で、

翔 太  「僕の大切な絵なんだ」


〇駅前の居酒屋 入り口前(二ヶ月後)


もうこの時点で陸の本当の思い出は完全に忘れさられて、新しい思い出に書き換えられている。

辺りは暗く、一人居酒屋の前で待っている陸。

  陸  「(夏も終わりだな……)」

電車の音が聞こえる。

時計を確認する陸。

(18時20分)

同窓会集合時刻の十分前。

  陸  「(やっぱり誰も来ないか……そりゃそうだよな……仲の良かった奴らも今じゃほとんど疎遠になってるし、自分達の思い出をぶち壊された張本人から同窓会の誘いが来るんだ……行きたい訳ねぇよな……)」

ため息をつき途方に暮れている陸。

うな垂れる。

陸の死角になっている所に大勢の人が。
      
その瞬間、声がかかる。

  声  「陸ーー」

驚き後ろを振り返る陸。

そして言葉を失う。

五年四組の生徒ほとんどが集合している。

その中にはイダセン、米川、夏美、恵子、前田、そして清水の姿も。

みんな笑顔で陸の方を見ている。

体が震えて泣きそうになる陸。

  陸  「みんな……」


〇居酒屋 店内

ほんのりと暖色系のライトが点いて薄暗い印象の店内。

大きなテーブルを囲む五年四組の生徒達。

あまりにも人数が多いため、ほとんど貸切状態になっている。

テーブルにはすでにセッティングされた豪華な料理と沢山のビール。

緊迫した空気が流れている。

一人、立っている陸。

乾杯の合図を待っているみんなの顔を見渡す。

何かをかみ締めるようにしっかりと。

しかし花梨の姿が見えない。

少し表情が曇る陸。

真剣な表情のイダセンと目が合う。     

目で合図を送るイダセン、コクリと頷く陸。

気にせず話し始める陸。

  陸  「今日はみんな集まってくれて本当にありがとう。 正直誰も来てくれないと思ってた……すぐに乾杯をしたいのは山山なんだけど一旦グラスを置いて、少し俺の話を聞いてくれないか?」

あたりは静まり返る。

さらに緊迫した空気。

真剣な表情で陸を見つめる生徒達。

ゆっくりとドアが開く。

花 梨  「ごめーん、遅くなっちゃって」

夏 美  「しーっ」

遅れて入ってくる花梨に静かにするよう合図をする夏美。

思わず口を押さえる花梨。
 
陸は花梨がいる事にまだ気づいてない。

荷物を下ろし、一人立っている陸を見つける。

真っ直ぐ陸を見つめる花梨。      

  陸  「みんな……校内学芸会を覚えているよな? 夏にやった五年四組のシンデレラ……そう……俺がぶち壊してしまったシンデレラだ……遅くまで学校に残って何度も何度も練習したよな……最高の思い出を作ろうとみんなで頑張ったよな……けど俺の勝手な行動で劇はまさかの中断……あんなに練習したのに結果を出せず悪い思い出だけが残ってしまった…………俺は自分がしてしまった事の重みにとても耐えれなくて、次第に俺の側から離れていくみんなに何一つ声を掛けれなかった……今さら謝っても許してもらえると思ってない……独り善がりだって分かってる……けど…………自分が許せない……」

急に土下座をする陸。

手を突き頭を深々と下げる。
      
  陸  「本当に…………すいませんでした!!!!」

陸の声が響く。

苦悶の表情。

静かな空気、何も言わない生徒達。

陸のすぐ後ろから清水が忍び足でやってくる。

周りにしーっと合図を送りながら、突き出た陸のお尻に勢いよくカンチョーする。

  陸  「……ッツ」

声なき声をあげ飛び上がる陸。

すぐ後ろを振り返り、

  陸  「何しやがる清水てめぇ!」

清水がにやにやと笑っている。

思わず清水に昔のような態度をとった為、あっとなる陸。
                  
清 水  「その気持ちだけで十分だよ。 それにもうみんな怒ってない。 なぁ、みんな?」

やさしい笑顔で頷き、陸の方を見つめる生徒達。

驚いた表情の陸。

再び清水の方を見る陸。
   
真剣な表情で言いにくそうに、

  陸  「なぁ……清水……」

陸の話を止めるように首を横に振る清水。

何も言わずに手を軽く握り陸の前に向ける。

はっと何かに気づき応えるように頷く陸。

同じようにして清水の手にコツンと当てる。

照れ臭そうにニコッと笑う陸と清水。

前 田  「おーい幹事! そろそろ乾杯の挨拶してくれよーもう待ちきれないよー」

それを聞いて笑い出す生徒達。

ようやくやわらかい空気が流れ始める。

グラスを持ち、再びその場に立ち上がる陸。

  陸  「あっ、いけね! それじゃあみんなお待たせしましたっ。 最高のクラス、五年四組の再会にかんぱーい!」

一同  「かんぱーい」

グラスがカンッと当たる音が鳴り、あたりは一斉に騒がしくなる。

          ×           ×           ×

清 水  「その時だよ! 前田が俺の水筒に入ってるお茶をがぶがぶ飲んだんだ。 俺は大丈夫か? って聞いたよ。 そしたらすごく満足した顔で美味しいって言うんだ。 前田ーーあん時のお茶、前の日に水筒を忘れて帰ったから多分腐ってたぞー」

前 田  「何で今頃、暴露するんだよー遅いよっ!」

清 水  「どうだ? 腹痛くならなかったか?」

前 田  「覚えてないよ!」

前田も清水も顔が赤くなっている。

みんな酒に酔って楽しんでいる様子。

その場に立ち上がり大きな声をあげている清水。

清 水  「よーし、じゃあ暴露大会しようぜーーお題は今だから言えるあの頃の事!」

何やらがやがやと盛り上がっている。

みんなそれぞれ席を移動した為、取り残されている陸。

一人でビールを飲んでいる。

恵 子  「隣いいかしら?」

  陸  「おぉ、恵子か? どうぞ」

陸の隣に座る恵子。

恵 子  「イダセンに聞いたの。 あの絵本はあなたが描いたって事。 本当に感謝しているわ。 弟を救ってくれてありがとう……」

  陸  「俺は何もしてない……それよりあの絵本はそこまで明るいような物語じゃなかったと思うんだ……なのにどうしてだろう?」

恵 子  「多分、どこかあの子なりに自分の心境と重なる部分があったんじゃないかしら」 

  陸  「そっか……」

  陸  「ってかお礼を言うのはこっちの方だ。 お前に黒魔術を……」

はっとなり何かを思い出そうとする陸。

首をかしげながら、

  陸  「俺、お前に黒魔術を教えてもらったよな? その後、黒魔術を何かに使ったってのは覚えてるんだけど、その何かが思い出せないんだ・・・・・・恵子、お前は覚えてないか?」