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20日間のシンデレラ 第4話 何にも焦ることなんかない

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静かな空気が流れる。

イダセン、首をかしげながら、

イダセン 「どうしたんだ出雲? 久しぶりに会ったってのに元気がないじゃないか」

不思議そうな目で陸を見るイダセン。

ゆっくりとイダセンの方を見て、

  陸  「先生……その……悩みを聞いてもらっていいですか?」

イダセン 「何だ、お前らしくもない。 さっさと言ってみろ」

意を決したように話し始める陸。

  陸  「俺……駄目です……ほんと駄目な人間です……取り返しのつかないひどい事をしました……それもその時、痛いほどわかったはずなのにまた同じ事を繰り返してる…………一生忘れられないくらいの後悔が残りました……けど俺、不安なんです……その後悔がこれから先、自分を呪いのように苦しめ続けるんじゃないかって…………何をやってもまたこりずに同じような事をしてしまうんじゃないかって…………俺……自分が前に進めているのか分からない…………怖くて……怖くて……仕方がないんです…………」

表情がどこまでも暗くなっていく陸。

沈黙。

ゆっくりと話し始めるイダセン。

イダセン 「何年前だったかな……佐々木からも相談を持ちかけられていたんだ……」

驚いた顔をしている陸。

イダセン 「弟を助けて欲しいと……何でも両親を失くしたショックで感情を失ってしまったんだとか……医者に診せても原因は分からない、精神的なカウンセリングなども受けたそうだが全く効果はない。 俺も何か方法はないかと何度も佐々木の家に足を運んだよ。 けど駄目だった……おもしろい話をしても悲しい話をしても表情は何も変わらず返事さえも返ってこない。 それが数年続き俺も正直もう無理だと半ば諦めてい    た………………」 

一瞬遠い目をするイダセン。

麦茶の中にある氷がカランと音を立てる。

黙って話を聞いている陸。

一息ついてゆっくり陸を見つめながら、

イダセン 「先日、とある本屋に寄ってな……ついつい一冊の本を買ってしまった。 それも普段、全く買わないような絵本だ…………俺は何を思ったんだろうな……その絵本を佐々木の弟に見せたんだ……」

真剣な表情の陸。

イダセン、やさしい顔をしながら、

イダセン 「そしたらな……笑ったんだよ…………綺麗でまだ幼い少年のような顔を初めて俺に見せてくれた。 佐々木はわんわん泣いてたな。 医者もこんな事は初めてだって目を丸くして驚いてた……」

言葉を失っている陸。

急にその場を立ち上がるイダセン。

不思議そうな顔をしている陸。

イダセン 「少し待っていてくれないか?」

そう言うと部屋を出て行くイダセン。

          ×           ×           ×  
      
イダセンが戻ってくる。

ゆっくりと座り、テーブルの上に何かを乗せる。

それはまだ真新しい絵本。

イダセンが陸を見つめる。

どこまでも暖かく、どこまでも優しい目で。

イダセン 「これはお前が描いたんじゃないのか?」

表紙には陸が小学生の頃、ノートに描いていたのと同じ恐竜の絵が描かれている。

タイトルの文字。

(一人ぼっちの恐竜)

体を震わせている陸。

沈黙。

恐る恐るイダセンの方を見ながら、

  陸  「はい…………俺が描きました…………実は……ある事がきっかけで中学の頃から絵本作家に憧れるようになったんです……高校を卒業して何度も何度も出版社に作品を持っていきました……そしたら去年、遂に発売できる事が決定したんです。一部の本屋なら置いてくれるって。 けど結果は全然売れなくて沢山の在庫ばかり抱えてしまった……売り上げも人に自慢できるようなものではありません……周りは有名ないい会社に就職して、給料も沢山もらってる……その中で自分は何をしてるんだろって……こんな給料も不安定で先が全く見えない事が仕事と呼べるんだろうか? 今、何をしてるんだって聞かれた時に悔しいけど絵本作家って事が言えなかった……だから俺は自分がしている事を隠しました………バイトして適当に過ごしてるって……確かに周りからは変な目で見られたけど、何かその方が気持ち的に楽だったんです……」

必死で何かを堪えている陸。

イダセン、しっかり陸の目を見ながらゆっくりと話し始める。

イダセン 「一生忘れられない程の後悔は確かに苦しい。 この先の自分が本当に正しいのか不安になるし、やり直せれるもんならやり直したいとも思う。 けどな……それは一見、ただ辛くて苦しいだけのように思えるが、見方を変える強さを持てばプラスになるんだよ。 後悔があるから今の自分があるんじゃないか。 出雲、目を覚ませ! お前は立派な事をしたんだ。 医学でも治らない奇跡のような事をやってみせたんだ! 自分が心からしたいと思う事をすればいいじゃないか! 胸を張ってやればいいじゃないか! そんな周りの目を気にする程、出雲陸は繊細な奴だったのか? 違うだろ!」

体をぷるぷると震わせる陸。

イダセン 「何にも焦る事なんかない」

さらに体を震わせる陸。

イダセン、陸の全てを受け入れるように最高の笑顔で、

イダセン 「お前はちゃんと前に進んでるんだよ」

白黒になっていた映像が急に色を帯びて人も景色も全てカラーになる。

陸、全身の力が全て抜けたようにその場に崩れる。

  陸  「先生ーーーーーーーーーっ!!!」

赤ん坊のように大きな声をあげて泣く陸。      

大量の涙が陸の目から流れる。

何度も何度も溢れていく。

今まで堪えていたものが全て放出されるようにきらきら綺麗に輝いて。

うんうんと頷きながらながら温かい笑顔を陸に向けるイダセン。
      

〇一人暮らしの陸の家 


机に座り真剣な表情ではがきに文字を書いている陸。

イダセンの声が脳裏によぎる。

イダセンの声 「出雲……すまなかったな。 学芸会の時、お前をぶってしまって……あれから先生も考えたんだ。 もしかするとあの行動はお前なりの何かがあっての事だったのかもしれないと……その後、お前は学芸会の話題があがる度に窮屈な思いをしてたんじゃないかと思う……そこで提案なんだが同窓会を開かないか? それも出雲……お前が幹事をしてみんなを集めるんだ。 五年四組の絆を再び取り戻そう。 失敗したら立ち止まるんじゃなくてまた歩き出せばいい。 今のお前になら分かるだろ?」

何かに後押しされるように黙々と文字を書き続ける陸。

すぐ側にはもう書き終えた大量のはがき。

冒頭には、

(同窓会のお知らせ)

と書いてある。
      
  陸  「(忘れるのが怖くて本当の思い出をどこかに書いて残しておこうとも考えた……もしかするとそれを見た時また思い出すかもしれないって……けどやめた。 もう俺は恐れない、今の自分と向き合って行こうと思う。 これからどうするか……それが一番大事なんだ)」

陸の表情はどこか希望に満ち溢れ生き生きとしている。


〇とある高校の教室


男子生徒 「おい、翔太!」

窓の外を眺めていた翔太、声を掛けられ驚いたように我に返る。

男子生徒 「大丈夫か? まだ寝ぼけてるだろ?」