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20日間のシンデレラ 第4話 何にも焦ることなんかない

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誰にも聞こえないぐらい小さな声でぼそっと、

花 梨  「…………忘れるわけ……ないじゃない……」

男子生徒 「えっ? 何だって? だからさぁ池田の住所も教えて欲し……」

ざわざわと騒がしい教室。

けどどこかしんみりともしている。

もう花梨と話し終わり自分の席に戻っている生徒。

花梨と話す順番を待って、列に並んでいる生徒。

泣いている生徒。

後ろの黒板を背にもたれ掛かり、自分の席に戻らずただ突っ立っている陸。

その陸の様子を気味悪そうに冷めた目で見ている生徒。

カーテンの隙間から差し込む光。

教室は何も変わらずに一層オレンジに包まれていく。


サブタイトル 『第4話 何にも焦る事なんかない』


〇陸の家 玄関
      

がちゃりとドアを開けて中に入ってくる陸。

よろよろと壁にぶつかり、何とか自分の部屋への階段にたどり着く。

台所から聞こえてくる母の声。

  母  「ん? 陸ー帰ったのかい?」

  陸  「……」

返事をせず階段を上っていく陸。


〇陸の部屋


全ての力を使い果たしたかのようにベッドに倒れこむ陸。

          ×           ×           ×

真っ暗な陸の部屋。

窓からも光が差し込まず、すっかり外も暗くなっている。

ゆっくりとベッドから起き上がる陸。

倒れそうになりながら勉強机の椅子に座る。

勉強机の上に置いてあるライトのボタンに手を掛ける陸。

ピッと音が鳴り、真っ暗な部屋に白色の明るい光が点る。

光に照らされる陸の表情。

無表情で全く生気を感じられない。

机の上に置いてあるノートを見つけ機械のようにパラパラとめくり始める。

ノートに書かれている7月18日の日記、

  陸(語り)「7月18日。 今日で日記を最後にしようと思う。 もう学芸会に向けて出来る限りの練習はしてきた。 花梨の演技もすっかり板についてきて、俺もやっと安心して自分の演技に集中できるようになった。 俺は現実に戻った時、今の思い出が上書きされて本当の思い出を失ってしまう。 けど明日はあの頃に負けないぐらい最高の思い出を作れるって……」 

急にノートを勢いよく閉じる陸。

目を見開き、手はぷるぷると痙攣しているかのように震え、その両手で自分の耳をふさぎ、さらに体を震わせながらこの上ないぐらい大きな声で、

 陸  「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

静かな部屋に陸の叫び声が響く。    

壊れだす陸。

壁を全力で殴り、大声を上げながら頭を打ちつける。

ふらふらしながらも暴れ続け部屋にあるものを無茶苦茶になぎ倒していく陸。

  陸  「はぁ……はぁ……はぁ……」

息を切らしその場に座り込む陸。

勉強机の上にあったものはあちらこちらに飛び散り、棚に載せていた漫画や本もほとんど倒れ、どこを見渡しても部屋の中は嵐が過ぎていったかのようにぐちゃぐちゃになっている。

窓からは月の光が差し込んでいて部屋には不気味な明るさを感じられる。

無造作に床に転がっている日記を見つける陸。

ゆっくりと立ち上がり、日記を乱暴につかみ部屋を出て行く。


〇台所


息を荒げながら台所に入って来る陸。

目は血走っていて殺気立っている。

ふらふらと真っ暗な台所をさまよいながら、食器棚の引き出しを勢いよく開ける。

中からチャッカマンが現れる。

急に表情が少し落ち着く陸。

すっとそのチャッカマンをポケットに入れて台所を出て行く。

      
〇陸の家 玄関前


メラメラと煙が上がっている。

真っ黒な闇の中に赤々と燃える炎。

陸の日記が書かれていたノートが、炎に迫られているかのように燃え続け、次第に灰になって原型を失っていく。

その場にしゃがんでチャッカマンをノートに向けている陸。

カチッとチャッカマンの発火される音が聞こえる。

何度も何度も不気味に繰り返される。

炎に照らされる陸の表情。

気が狂ったかのように笑っている。

  陸  「……俺の思い出……俺の思い出……俺の思い出……俺の思い出……俺の思い出……俺の思い出…………」

ぼそぼそとつぶやき続ける陸。

全く感情を感じられない。

もくもくと激しくなっていく煙、燃え上がる炎。

急に玄関のドアが大きな音を立てて開く。

飛び出てくる母。

目の前の光景に驚き、再び家の中へと戻っていく。

          ×           ×           ×

慌てながら大きなバケツを持って飛び出てくる母。

息を切らして、陸の方に近づき、

  母  「陸ーーーーーーあんた何やってんの!!!!」

火をさらにカチカチと点け続けている陸の体を突き飛ばし、バケツの中の水を勢いよく火の元にぶっかける。

じゅーっと音が鳴り辺りは煙で真っ白になる。

しばらく経って煙も晴れ、火の元は完全に消えている様子。

地面に尻を突いたままの陸。

その陸を驚いたような表情で見つめる母。

元々鳴いていたであろう鈴虫の鳴き声がちゃんと聞こえ始め、再び外には元の夜の静けさがやってくる。


〇陸の部屋


  母  「一体どうしたって言うの!! 陸、答えなさい! どうしてこんなに部屋は無茶苦茶になってるの? どうして火なんか点けたりするの? ねぇ……陸ーーー」

陸の肩を揺さぶり大声を上げている母。

次第に表情が崩れ涙を流している。

人形のように何も言わず、ただ揺さぶられている陸。

ふと視線を下に向ける。

床には目覚まし時計が転がっていて針は十二時前を指している。

急に感情を取り戻したかのように落ち着いた表情になる陸。

泣き崩れている母。

優しい目で母を見つめて、

  陸  「…………もう時間だ……何年経っても馬鹿な息子でほんとごめんな……おかん……」

  母  「えっ、陸! あんた何言ってんのよ?」

不思議そうな顔をしている母。

床に転がった時計がちょうど十二時を指す。

穏やかな笑顔を母に向ける陸。

その瞬間、激しい胸の痛みに襲われる陸。

  陸  「うっ……」

うつろうつろな目がゆっくりと閉じていく。

意識を失う陸。

目を見開き言葉を失っている母。

  母  「陸…………陸ーーーーーーー」

母の声が陸の部屋に響く。

      
〇真っ白な世界


陸の意識がゆっくりと目覚める。

周りは真っ白で何も存在しない。

何故か体が宙に浮いている感覚がある。

流れに身をまかせている陸。

表情は無表情のまま。

急に目の前からものすごい速さで何かが飛び込んでくる。

激しい音とともにそれらは陸の両手足につかまり、強く引っ張る。

よってたかって引っ張る。
      
機械のようにゆっくりと視線を体が引っ張られている方に向ける陸。

およそ十人程の数の少年達。

その顔は全て陸と同じ顔。

同じように無表情。

さらに体が千切れそうなぐらい乱暴に引っ張る。

されるがままの陸。

表情は無表情のまま。

しばらくすると再び目の前から何かがやってくる。

今度はどこまでも不気味にゆっくりと。