茶房 クロッカス 最終編
カラ〜ン コロ〜ン
「こんにちわぁ〜」
優子がそう言いながら入ってきた。
「あっ!」
沙耶ちゃんと俺はほとんど同時に声を上げた。
「お母さん! どうしたの? 突然。それに、よくここが分かったわね」
「ふふっ」と優子は鼻で笑うと、俺の方を見てにっこりした。
「あ、マスター、うちの母……」
沙耶ちゃんはうちの母ですと言おうとしたのだろうが、俺の顔を見た途端に後の言葉がかすれて消えた。
俺が優子と目で会話していたのに気付いたのか、はたまた俺の照れ笑いの表情に何かを感じたのか? いずれにしても勘のいい沙耶ちゃんのことだ。
「――ねぇお母さん、もしかしたらマスターと知り合いなの?」
沙耶ちゃんはまず母親に確認した。そして俺にも、
「マスター、そうなの?」と、重ねて聞いた。
そばで良くんが、何事が起こったのかと目をキョロキョロさせながらみんなの顔を見回している。
「悟郎くん……」と優子が言って、後の言葉を目で促した。
「沙耶ちゃん。やはりこういうことは男の俺から言わなくちゃね」
「えっ、……」
言葉にはしなかったが、どういうこと? と、その視線が問い掛けている。
「実は、今朝約束したよね。その約束を今果たすよ」
「………?」
沙耶ちゃんが幾分不安気な顔で俺を見つめる。
「実は……、俺が昔別れたクセに、今でもずっと好きな人がいることは沙耶ちゃんも知ってるよね」
「えぇ……」
俺は慎重に言葉を選びながら口にしていった。
「彼女の名前を言ったことがなかったかも知れないけど、彼女の名前は……」
沙耶ちゃんがゴクリと唾を飲む音がした。
「――優子と言うんだ」
「えっ! 優子って、……まさか…まさかのまさかなの?」
「アハハ……、そのまさかなんだよ」
「えぇーーー! ウッソー! そ、そんなの信じられないよー! だって、今までだって散々お母さんにはマスターの話してたんだよ〜。もし本当なら、どうして今まで分からなかったのー? あ、それともずっと前から分かってて、私には黙ってたってこと?」
沙耶ちゃんはいつもより幾分甲高い声で、ほとんど叫ぶようにそう言った。
彼女にしてみれば、思ってみたこともないのだろうから驚くのも当然だ。
俺だって、沙耶ちゃんが優子の娘だと知った時にはかなり驚いたのだから。
作品名:茶房 クロッカス 最終編 作家名:ゆうか♪