茶房 クロッカス 最終編
「優子、そんなこと悩むことないじゃないの!」
突然おりゅうさんが俺たちの会話に口を挟んできた。
「沙耶ちゃんがそう言ってるんなら、何も心配することないじゃん。さっさと悟郎さんと結婚しちゃえばいいんだよ! そして、今までの寂しさをそれ以上の幸せで埋めればいいんだよ。その方がきっと沙耶ちゃんだって喜んでくれるよ」
「ふぅ〜ん。龍子さんはそう思うんだ?」
「そりゃあ、もちろん……」
俺はおりゅうさんの言葉を慌てて遮って声を掛けた。
「あのぉー、すいません。俺、まだ優子にプロポーズはしてないんですけど〜。それに、優子は過去のトラウマからまだ抜けられないみたいだから、もうしばらくその気持ちが落着くまで、俺は優子をそっとしておきたいと思ってるんだ」
「あっ、そうだった! キャハハハ。またやってしまったわ。私ってこう見えて結構せっかちなのよねぇ〜ふふっ、失礼しました!」
「いや、でももしからしたら逆にちょうど良い機会なのかも知れない」
おりゅうさんに言われて実際そう思った俺は、姿勢を改めて優子に真っ直ぐに向いた。
「優子、よく聞いてくれ。俺はこの何十年ずうーっと一人で寂しい時を過ごしてきた。しかしようやく優子に会えて、毎日が楽しいんだ。そして、この日々がもっと素敵にずうーーっと続いていって欲しいと切に願っている。だから……、なんだよ……。うーーんと、今さっき言ったことと矛盾してるかも知れないけど、優子、俺と結婚してくれないか? もちろん返事は今すぐではなくてもいいよ。俺を男として受け入れられる自信がついてからでいいから……」
「悟郎くん……」
ヒューヒュー!
突然かすれたような口笛が聞こえた。そして、一歩遅れて拍手が……。
「優子、おめでとう!! 悟郎さんなら私は大賛成だよ。沙耶ちゃんだってきっと喜ぶって!」
「龍子さん……。嬉しいんだけど、でも私自信が……」
「もう、優子ったら……。悟郎さんが返事は今すぐじゃなくっていいって言ってくれてるじゃない。だからそんなこと心配しないの! 実際に悟郎さんと結婚するかどうかはどうせすぐのことじゃないんだから、そんなこと心配しないで。これからの時間を悟郎さんと沙耶ちゃんも含めた三人で楽しく過ごすことを考えてみてはどう?」
「龍子さん、本当にそれでいいのかしら? 私、かえって悟郎くんに迷惑を掛けることにはならないかしら?」
「優子、なぜ迷惑なんだよ。そんなことあるわけないじゃないかっ。俺は、優子が自分の近くにいてくれてると思えるだけでも幸せなんだから」
「悟郎くん、ありがとう。本当に嬉しいわ。まさかこんな日が来るなんて。私……」
そう言った優子の瞳から大粒の涙がポロッと零れて落ちた。
「優子……」
俺は優子の肩に腕を回し、彼女の頭を胸にそっと抱き締めて耳元で囁いた。
「優子、俺たちはきっと、こうして再会する運命だったんだよ。俺はそう信じてるよ。今度こそ一緒に幸せになろう!」
優子は俺の胸の中で、小さくコクッと頷いた。
「さあ〜、じゃあお祝いの乾杯をしましょうよ!」
おりゅうさんがビールを差し出して、俺たちはみんなでビールのグラスを傾け乾杯を交わした。
そしてその後、優子と二人で沙耶ちゃんにどういう風に二人のことを告げるか相談した。
なるべく自然に、そして彼女が気持ちよく受け入れられるように、二人が揃っている状態で知らせた方が良いだろうということになった。
その夜、優子と別れて家に帰って布団に入った俺は、数日後の、沙耶ちゃんに話す時のことを考えるとドキドキしてなかなか寝付けなかった。
作品名:茶房 クロッカス 最終編 作家名:ゆうか♪