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茶房 クロッカス 最終編

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 ドアを開けて入って来た京子ちゃんは、しばらく見ぬ間に男らしくなった京平を目にして、何も言わないまま驚いたように立ちすくんだ。
 京平も久しぶりに見る京子に見惚れているようだ。
 二人はそうやってしばらく見つめ合っていた。
 何分位そうしていたのだろう……やがて、
「京子」
 そう呼ぶと、京平はようやく京子ちゃんに駆け寄り、そのまま彼女を抱き締めた。
 京平は、腕の中の京子ちゃんが消えてしまうとでも思うのか、力いっぱい抱き締めている。そして京子ちゃんの耳元で何か囁いたようだ。
 途端に京子ちゃんは真珠の涙で瞳を潤ませ、何も言わずただ京平にしがみついた。
 すると京平は、何やらポケットから取り出して京子ちゃんに手渡した。
 見るとそれは白い木綿のハンカチーフで、隅にイチゴの刺繍がチラッと見えた。
 京子ちゃんはそれを見てにっこりと、泣き笑いの表情になっていった。

 俺は二人の様子を見ていて、また今日も涙でボロボロになっていた。
 これからの二人にはきっと幸せが待っているに違いない。二人を見ていて俺はそう確信した。
 その後もしばらく二人は、離れていた間の色んなことをお互いに話しながら、表情も多様に変えつつ、これまでの二人にできた深い溝を一生懸命埋めようとしているようだった。
 突然立ち登った竜巻のように俺たちの前に姿を現した京平は、京子ちゃんとじっくりお互いの心を確認しあうと、京子ちゃんの親に結婚の挨拶をすると言い出して、その足で二人連れ立って店を出て行った。
 ドアを開けて出る寸前、京子ちゃんは振り向くと俺と視線を合わせ、満面の笑みで輝く瞳から最高のウィンクを投げて寄越した。
 それに応えて俺は、そっと右手でVサインを作り京子ちゃんに向けた。
 同じように恋に悩んだ者同士の暗黙の了解だった。