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茶房 クロッカス 最終編

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「もしもし、あのう、私は駅前で茶房 クロッカスという店をやってる前田というものですけど……」と、俺が言うと、
「あっ、悟郎さん。どうしたんですか?」と、京子ちゃんの声がした。
「ああ、良かった。君が出てくれて。もし留守だったらどうしようかと思いましたよ」
「さっき仕事から帰ったばかりなんですよ。何か?」
 ちょっと安心した俺は、一息ついて続けた。
「実は、君にどうしても会いたいと言う人が今ここへ来ているんです。今からすぐに来れますか? うちの店まで……」
「もちろん行けますけど、会いたい人って? ……どういうこと? 誰なんですか? 私に会いたい人って……」
「えっ? えぇ、それは……、来てもらえば分ると思いますから……」
「そうですか、分かりました。じゃあ今からすぐに支度して行きますね」
「では、お待ちしてます」
 そう言って俺は電話を切った。

 受話器を置いて彼の方を見ると、俺の言葉を待っているのが分かった。
 だから俺は敢えてこう言った。
「紅茶でも飲みますか? すぐに来るそうですよ」と。
 俺の言葉に、彼は緊張感が一気に消滅したようにぐったりとしてしまった。
 そして俺が入れた紅茶を目の前にそっと置くと、本当に美味しそうに彼はそれを飲み始めた。

「何も聞かないんですね?」と彼が言う。
 俺はただ微笑んだ。そして京子ちゃんが来るまでの時間を測っていた。
 京子ちゃんの家からここまでは、一体どのくらいで来れるのだろう。
 京子ちゃんが来て彼と会う時のことを考えると、次第に胸がドキドキしてくる。まるで自分のことのようだ。
 時間と共に、彼の表情にも次第にまた緊張の面持ちが戻ってきた。
 彼は今何を考えているんだろう。

 しばらくした頃、店のドアが来客を告げた。
 カラ〜ン コロ〜ン
 俺はすぐさまドアの方を振り向いた。