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茶房 クロッカス 最終編

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 もしかしたらこれは、あの時投げたブーケの効果だろうか? チラッとそんな考えが脳裏を掠めたが、それは満更外れてもいなかったのかも知れない。
 なぜならその一ヶ月後、まだ残暑厳しい中で、重さんと夏季さんのささやかな結婚式と披露宴をこの「茶房 クロッカス」で執り行うことになったのだから……。
 もちろん参列者は、いつもうちの店を贔屓にして下さっている常連客の皆さんだったことは言うまでもない。
 その時の重さんの何とも言えない照れた顔と、夏季さんの幸せに輝く笑顔の写真は、カウンターの片隅に常備してある白い木綿のハンカチのそばの少し大きめのハート型の写真立ての中で、この店が続く限りこれから先もずっと、俺たちやお客さんに幸せな笑顔を振りまいてくれることだろう。
 来年には俺も、もしかしたらおじいちゃんになっているかも知れない。
 そうなれば、新しい命の誕生と、更に、新しい絆が生まれることになる。
 そんな期待に胸を膨らませながら俺は、毎日を、新たなお客さんとの親交を深めつつ、優子とのささやかな幸せを噛みしめながら過ごしていくだろう。
 
 こんなしがない喫茶店のマスターをやってる俺の話を、最後まで聞いてくれた皆さん、本当にありがとう。
 これからは今までにない『嬉しい責任の重さ』を背中に感じながら、忙しい毎日を過ごすことになりそうなので、今回の俺の話はこれにて一旦終了とさせて頂きます。
 しかしまた楽しい話を見付けたら、その時は皆さんにお話するかもしれません。

 ルルルル ルルルル
 あっ! 電話だ。
「はい、茶房クロッカスです! ――あっ、京子ちゃん」
「――うん、……うん。そうか、それは良かった。――あぁ、もちろん喜んで出席させてもらうよ、優子と一緒に。――大丈夫! 店なんて休みにすればいいんだから。――アハハ……。あぁ、じゃあ楽しみにしてるよ」
 ガチャ
 今、聞いての通りです。えっ? 分からないって? 
 フフッ、今、京子ちゃんからの電話で、二人の結婚式が来年の秋、京平が社会人になって少し落ち着いてから挙げることに決まったそうです。
 さあ皆さんも一緒に、若い二人の前途が明るく幸多いものであるよう祈ってやりましょう!

 本当に最後の最後までお付き合い下さり、今のこの気持ちは感謝以外の何ものでもありません。本当にありがとうございました。    
       
            茶房 クロッカス 店主 前田悟郎 拝
                    
                                  了