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茶房 クロッカス 最終編

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「うん、京子ちゃん。色んなことがあったよな。でも……」
「ふぅ〜ん、そうだったんだぁ」
 お多恵さんが感心したように頷いている。
「――でも、その京平が帰って来てたんだよ。どうしてだと思う?」
「ただ実家に帰って来たんじゃないの?」
 京子ちゃんは首を傾げる。
「きっとそれは違うと思うよ」
 俺が口を挟んだ。
「えっ、悟郎さんどうしてそう思うの?」
「うん、さっき言いかけて話がよそへ行っちゃったけど、ここへ来たんだよ京平が……。なぜだと思う? ただ実家に帰るためなんだったら、わざわざここへは来ないと思うんだ。だって京子ちゃんに悲しい思いをさせたのに、ここは京子ちゃんとの思い出の場所なんだぜ。そんな所へ来ると思うかぃ?」
 お多恵さんが首を捻りながら言った。
「じゃあもしかして、私が京平と出会ったのはその後だったのかな?」
「多分そうだと思うよ。だって彼は駅を出て真っ直ぐうちの前まで来たんだ。そうしてしばらく店をじっと見ていた。俺はてっきりここへ来るのかと思ってたよ。ところが彼は、何かを諦めたような顔をして方向を変えて行ってしまったんだ。だからきっとその後じゃないかな? お多恵さんが出会ったのは……」
「――で、お多恵さん、京平と何か話したの?」
 京子ちゃんが尋ねた。
「えぇ、彼はイヤだったのかも知れないけど、私は京子のことを聞いたの。どうして彼女を振ったりしたのかって……。そしたらその時の事情を意外に素直に話してくれて、彼は後悔してるようだった。そして言ったの。本当は今でも京子のことが好きなんだって! でも、きっと京子はもう許してくれないだろうって言って、悲しそうな顔をしてたわ」
「お多恵さん、それ本当なの?」
「もちろんだよ! だから私は言ってやったの。もし許してくれないにしても、本当に悪いことをしたと思うんだったら、ちゃんと京子に謝るべきなんじゃないの! って」
「そう、そんなことを……」
 京子ちゃんは何か考え込んでいるようだった。
「だから急いで京子に知らせようと思って、それで久しぶりに電話したんだよ」
「そうだったんだ。ありがとう、お多恵さん。心配してくれて……」
「京子ちゃん、もしかしたら京平は君に謝りたくて帰って来たんじゃないのか?」
「えっ、でも、まさか……。もうあれから三年近く経ってるのに……」
「もしかしたらこの後、京平から連絡があるかもしれないから、今日は早めに家に帰っておいた方がいいんじゃないのか?」
 そう言った俺の忠告を受けて、一応家に帰ってみると言って京子ちゃんは急いで帰って行った。
 お多恵さんも夕飯の支度があるからと言って、京子ちゃんと一緒に店を出た。
 帰り際に「またお邪魔してもいいですか?」と言う言葉を残して……。
 もちろん俺の返事は「いつでもどうぞ〜」だったのは言うまでもない。