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茶房 クロッカス 最終編

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「あっ! あいつは……」 
 俺は俄かに記憶が甦っていく。
 約二年半前のあの日、京子ちゃんと京平が連れ立ってうちの店を出て行った時のあの情景が……。
 当時に比べれば身長も伸びて、一段と男っぽく変わってはいるが、何となく感じる印象が彼に間違いないと俺の脳裏に警告を発する。
「ここへ来るつもりなのか?」
 俺は構えた。

 店の中から見る俺には彼の姿がはっきり見えているが、彼から見る店の中は、外の明るさのせいで何も見えないのだろう。しばらく表に立ったまま動こうとしない。
 俺が外へ迎え出ようとするより少し早く、何かを諦めたような表情で踵を返すと右を向いて歩き出した。
 俺は今の出来事をすぐにでも京子ちゃんに報せたかったが、考えてみたら京子ちゃんの電話番号は聞いてなかったのだった。
 仕方ない、また次に京子ちゃんが来た時にでも話してやろう。
 そう思っていたら、その日の夕方、珍しく京子ちゃんがやって来た。それも初めて見る顔の、子連れの女性を伴っていた。

「京子ちゃん、いらっしゃい! 珍しいね、元気だったかい? そちらはお友達かぃ?」
「えぇ、ありがとう、私は元気よ。彼女は同級生のお多恵さん」
「あ、初めまして京子の同級生の神保〔じんぼ〕多恵子と言います。よろしく」
「あぁ、お多恵さん宜しく。俺はしがないマスターの前田悟郎です」
「――そんなことより大変なのよ!」
 挨拶もそこそこに、お多恵さんはいきなり本題に入ろうと焦っているようだ。
「どうしたの? わざわざ電話してくるぐらいだから、何かあったんだろうとは思ってたけど、あっ悟郎さん、紅茶二つお願いします。あ、お多恵さんも紅茶でいいわよねぇ?」
「えぇ。そんなことより聞いて! 京子」
「分かったから取り合えず座りましょうよ」
 京子ちゃんにそう言われ、ようやく二人は壁側のテーブル席に着いた。
 お多恵さんが連れてる女の子も、ちょこちょこっと二人について行きテーブル席にひょっこり座った。