茶房 クロッカス 最終編
その日もまあまあの客入りで忙しく、瞬く間に時間は過ぎて行った。
沙耶ちゃんが帰った後で片付けを終え、ようやく待ちに待った閉店時間=優子とのデートの時間になった。
俺は鏡で一応身支度を確認すると、バンダナで固定していた髪の毛を気持ち膨らませてみた。
「ヨシッ!」
声を出して気合いを入れると、約束の場所へ自転車で急いだ。
四月ともなると夜の風は一際気持ち良い。
少しだけ梅雨前の湿り気を帯びて、肌をくすぐり過ぎる時にほんわり暖かさを伴って掠めていく。
これがまたしばらくすると梅雨が来て、さらに暑い夏に変わり、また秋が来る。そしてまた寒い冬。一年が巡るのって何て早いんだろう。
今まではその季節の巡りすら寂しいものに感じられたのに、今の俺はなぜか心が弾むような気がしている。
人間って、やっぱり愛する人が傍にいるといないとではこんなにも違うものなんだろうか。
できれば優子にも同じ気持ちになってもらいたい。
そんなことをふっと思い、ペダルを踏む足に力を込めた。
そして間もなく、約束の店の前に着いた。
店の前には、いつものようにピンクの文字で書かれた「R」の看板が、嬉しそうに俺を待っていた。
《いや、違うか……。俺の方だな、待ってたのは……フフ》
俺は例によって、重厚な黒い扉を開けて中へ入った。
本当はここではなく、もっと落ち着いて話せる場所の方が俺は良かったんだけど、優子はおりゅうさんの店の方が落ち着くと言うので、仕方なくここでの待ち合わせにした。惚れた弱みか……。
しかし、お客さんがあまり来ないといいのだが。おりゅうさんが聞いたら怒りそうなことを本気で考えていた。
作品名:茶房 クロッカス 最終編 作家名:ゆうか♪