茶房 クロッカス 最終編
悲しいかな、優子はしばらく忙しいとかで、約束の日を迎える前に月が変わって四月になった。
その間も当然沙耶ちゃんとは顔を合わすわけで、俺としては内心本当のことを話したくてウズウズしていたんだけど、幸か不幸か、沙耶ちゃんからお母さんのことを話し出すことはなかったから、何とか俺も黙っていることができた。
そんな中、ようやく優子との約束の日が訪れて、俺は朝からソワソワと落ち着かなかった。
どうやら俺って何でも態度に出るタイプらしくって、沙耶ちゃんに呆れ顔でこう言われた。
「マスター、今日はどうしたんですか? 何か変ですよ。朝からソワソワと落ち着かなくて……。まるで初めてのデート当日の少年みたい! でも、マスターがデートのはずないですもんねーっ」
そう言って俺の顔をジーっと見ると、いきなりキャッキャと笑い出した。
《ムッ! こいつなんて鋭いんだ。……しかし……》
俺は何だか悔しくなって、ついむきになって言ってしまった。
「沙耶ちゃん! こう見えても俺だって、デートの相手ぐらいいますから!」
言い終わって一瞬《勝ったーー!!》と思った。が、次の沙耶ちゃんの一言で《アァー! しまった!》と後悔した。
沙耶ちゃんはまたまた俺の顔をジーっと見るとこう言った。、
「マスター、それって本当かなぁ? だとしたら当然相手はずっと以前から想い続けてた人だよねー。ん?」
「もちろん! 当然だろ」
「へぇー、じゃあ会えたんだ、その人に! ――うーん? だったらなぜ今まで黙ってたのぉ? 何か怪しいー! マスターって隠し事できない人だよねぇ」
「えっ? そ、そんな。何も怪しいことなんてないさ」
俺はつい動揺して、いつもの癖で頭を掻いた。(ポリポリ)
「そうやって頭を掻くってことは、やはり何か私に隠し事してるなぁ〜!?」
沙耶ちゃんの追及を逃れる手を頭の中で必死に模索していた俺は、思い余ってこう言った。
「沙耶ちゃん! 大人には色々大人の事情ってものがあるんだよ。ちゃんと話せる時が来たらきちんと報告するから」
「本当ねー?」
「あぁ、約束するよ」
「分かったわ」
《ふぅ〜〜う》
俺は心の中で、かなり大きな吐息を一つついた。
さすがに沙耶ちゃんもそれ以上の追及はして来なかった。
作品名:茶房 クロッカス 最終編 作家名:ゆうか♪