茶房 クロッカス 最終編
「マスター、どうなの? 本当のところは……。黙ってないでさっさと話しなさい!」
礼子さんの目が段々吊り上がってくるように見えて、俺は慌てて話し始めた。
「えぇっと、実は……、結果から言うとそうなんだ。俺、結婚することにしたんだよ!」
「ヒュウ〜! マジなのかぃ? 悟郎ちゃん」
淳ちゃんが、驚きと冷やかしからか軽く口笛を鳴らした。
「あぁ」
俺は素直に頷いた。
「えっ、じゃあ相手は?」
「うん、やっと逢えたんだよ。何十年ぶりかで……」
「悟郎ちゃん、ホントに本当なのね!? 悟郎ちゃんにもついに人生の春が来たのね。良かった、良かっ…」
礼子さんの最後の方の言葉は、すでに涙と鼻水で掠れていた。
「礼子さん、ありがとう。俺も生きていて良かったって、大袈裟でなく、本当にそう思ってるよ」
ウンウンと、声にならない礼子さんが、頭をせわしなく上下に振って頷く。
「でもそれだけじゃないんだ!」
「えっ! まだ何かあるんですか?」
それまで黙って聞いていたみのさんが、驚いて口を挟んだ。
「へへへっ、こっちの方がきっとみんな、もっと驚くと思うよ」
「えっ、何だよそれ。そんなに気を持たせないで、さっさと白状しちゃいな!」
淳ちゃんがニヤナヤ笑いで言う。
「――それでは皆さんにご報告します。俺と沙耶ちゃんは間もなく親子になりまーす!」
「エエーーーッ!!」
三人が合唱するように声を合わせて叫んだ。
「そ、それって、一体どういうことだよ! ちゃんと説明してくれよ、悟郎ちゃん」
淳ちゃんのリクエストに応えて俺は、優子と再会した時のことから始めて、沙耶ちゃんが優子の娘だと知った時の驚き、更に優子の過去の痛みを知り、今度こそ優子を幸せにしたいと思ったことなど、ダイジェストで話していった。
俺が話し終わると、みんな一様に大きな溜息をついた。
そして誰からともなく、
「そんなことがあったんだ〜」
「色んなことがあったのねぇ、知らない間に……」
「そうだったんですか〜」と、口々に言った。
「――まだそれで終わりじゃないんだ」と俺が言うと、
「えっ! まだ何かあるの?」
礼子さんが、ただでさえ大きな目をまた一段と大きくして言った。
残りの二人も同様な顔で、口をぽっかり開けている。
余りに驚きの連続で呆けてしまったように見える。
作品名:茶房 クロッカス 最終編 作家名:ゆうか♪