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茶房 クロッカス 最終編

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「そうか、愛される自信か……」
 優子がボソッと呟いた。
「――悟郎くん。良くんが言うように、私、愛される自信を持ってもいいのかしら?」
「もちろんだよ! 俺はもう何十年もひたすら優子だけを想い続けて来たんだぜ。それでも愛される自信が持てないなら、世界中のだぁれも、そんな自信は持てないって断言できるよ!」
「悟郎くん……嬉しい。ありがとう」
 そう言った優子の頬に涙の雫が一粒転がった。
「――私、いつまでも過去のトラウマに囚われていてはいけないのよね。ちゃんと前を見なくちゃ。……考えてみればあの時、悟郎くんに振られて滅茶苦茶落ち込んでいた時に、優しく手を差し延べてくれたあの人に縋ってしまった。それ自体は間違ってなかったと思うの。だってそれからの数年間、あの人は私や沙耶に至福の時を与えてくれたんだもの……」
「――それなのに私は、あの人が一番辛い時に、あの人の気持ちを分かってあげようとしてなかったのかも知れない。受け取る愛にきっと慣れっこになって、与える愛をどこかに置き忘れて来てたのかも知れない。それなのに私ったら、自分の不幸にばかり囚われて、幸せだったことすら忘れてた」
「……だからこれからは、悟郎くんから貰うだけじゃなく、私から与える愛を模索していこうかと思うの。もしかしたら、あの時の悟郎くんとの別れは、今こうして再会するための序章だったのかも知れないわね。長い時間を隔ててしまったけど……」
「――人には、生まれた時から出会うべき人が予め定められていて、その中でも触れ合う期間の長い人と短い人がいるのかもしれない。あの人との触れ合いは短かったし、辛いこともあったけど、悟郎くんとはこれから先、できれば長く幸せな時を重ねていきたいわ」
 静かに想いを込めて語る優子の話を聞き終わり、その言葉を受けて俺は尋ねた。
「優子、それってもしかして、俺のプロポーズへの返事と取ってもいいのかなぁ?」
 俺は、そうであって欲しいという願いを込めて優子の瞳を覗き込んだ。
 すると優子は一瞬だけ俺と目を合わせ、すぐに照れたように下を向き、そして囁くような小さな声で「はい」と言った。
「やったー!」
 俺がそう思うのと、良くんが叫ぶのが同時だった。
「――マスター、やりましたね!」
 良くんは満面の笑みでそう言ってくれた。
「うん」
 俺は頷き、優子を見た。
「優子ありがとう。俺、今日まで生きてきて良かったって、今ほど感じたことはないよ。本当にありがとう!」
 優子に心からの礼を言うと、知らず知らず涙が溢れてきた。

「もう、マスターったら! 本当に涙もろいんだから、男のクセに。ねっ、お母さん! 私の言った通りでしょ?」
 優子は沙耶ちゃんには何も答えず、涙ぐんだ瞳でただ頷いて見せた。
「いいじゃないか! 涙もろくたって。そういう人に悪い人はいないよっ」
「そうだよね!」
 良くんと沙耶ちゃんが頷き合っている。
「あっ! ……ということは、僕たちダブル結婚式だってできるぞ!」
 良くんがいきなり爆弾発言をした。
 みんなで一斉に顔を見合せたが、誰も異議を唱える者はいないようだった。
「じゃあそうするか! でもその前に、近々家族になるんだから、みんなで前祝いに食事にでも行こうよ」
 俺の提案はみんなに快く受理され、ちょうど閉店時間でもあったので急いで店を閉め、みんなで近くのファミレスへと繰り出した。