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茶房 クロッカス 最終編

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 三人の視線は一気に沙耶ちゃん一人の上に注がれた。
「あ、えっと〜、もちろん反対なんてしないよ」
 その言葉を聞くや否や、三人は一斉に大きく息を吐いた。
 どうやら三人とも息も止めて、沙耶ちゃんの口から出る言葉を待っていたみたいだ。
 三人で見合せた顔から、ほっと笑みが零れる。
 しかし、沙耶ちゃんの言葉には続きがあった。
「ただね、うーんと、私、どうしたらいいのかなぁ? お母さんがマスターと結婚しちゃったら……」
 少し不安そうな顔で沙耶ちゃんが言った。
「なぁ〜んだ。沙耶ちゃん、そんなことを心配してたのかぃ? そんなこと何も心配いらないさ! だって三人で一緒に暮らすんだから」
《俺にもやっと娘ができるんだなぁ〜》
 そう思ったら、一気に顔の筋肉が弛んで溶け出しそうな気分になった。
「一緒に? ……でもそれじゃあ、私、お邪魔じゃないかなぁ?」
 沙耶ちゃんが小首を傾げる。
「だったら最良の方法があるよ!!」
 良くんが胸を張ってキッパリ言い切った。
「えっ! 最良の方法?」
 三人の声が一つになった。もちろん俺と優子と沙耶ちゃんの……。
 そして俺が代表するように良くんに質問した。
「良くん、その最良の方法ってのはどんな方法なんだぃ?」
「フフッ、簡単なことですよ!」
 まるでこの時を待っていたと言わんばかりに胸を張り、
「沙耶ちゃんが僕と結婚すればいいんです。沙耶ちゃん、僕の奥さんなって下さい」
 そう言った良くんは、まるで西洋の騎士がするように恭しく右膝を床につくと、右手を胸の前でクロスし、左手を後方斜め下に真っ直ぐ伸ばし、沙耶ちゃんに向かって深々と頭〔こうべ〕を垂れた。
「えぇーーー! 良くん、まじなのぉ?」
 驚きの声を上げたのは沙耶ちゃんではなく、それまで黙って様子を見ていた優子だった。
 沙耶ちゃんは? と見れば、何やら下を向いてモジモジしている。
「優子、そんなに驚いたら良くんに失礼じゃないか」
「えっ? あっごめんなさい。そんなつもりじゃぁなかったの。ただ良くんは、小さい時から沙耶と仲良くしてくれていて、てっきり妹みたいに思ってくれてるものだとばっかり思ってたから、まさか良くんが沙耶にプロポーズしてくれるなんて……、うっ、うっ、嬉しくって……」
 そう言いながら嗚咽を漏らしている。
 優子にとってはそれくらい嬉しい驚きだったということなのだろう。
 俺は、いつもカウンターに常備している白いハンカチと、ティッシュの箱をそっと優子に手渡した。
「グスン」 
 優子は泣き笑いの顔で、俺にありがとうと小さく言った。
「お母さん、そんな……、大袈裟だよ〜。泣くなんておかしいよ〜」
 そう言う沙耶ちゃんの瞳からも、今まさに大粒の涙が零れ落ちそうだ。
 俺は今度は、沙耶ちゃんにティッシュを渡さなければならなかった。
 二人はとうとう互いに抱き合って泣き出した。