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アガペー 〜あるAV女優へ〜 (後編)

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    八 身の丈の深さ

 小野は黙ってうららの話に耳を傾けていた。
 そして、さっきうららが話していた子供と娼婦と天国のくだりを想い起こしていた。
 まさか聖書でそういう解釈が特徴的に語られることを聞いたことがない。
 聖書を読み漁ったことがあるわけではないが、大よその概要程度なら知ってるつもりだ。
 でもなぜうららは子供と娼婦を同等に評価し、恩寵でも得たかのような救いを感じているのだろう。
 聖書から得られる慈悲というものは、受け手の解釈にこんなにも自由度を与えているのだろうか。
 うららにとって子供とは、まさにあの日レールを逸れることがなかったもう一つの世界に生きる汚れのない自分のことで、娼婦であるというこの現実世界の自分こそを相対的に存在する別世界のもう一人の自分にしようとしているのではないだろうか。
 現実から逃避するというよりかは、すり替えようとしている。もしくは娼婦をやることでいつでも簡単にすり替えることが出来る境遇にあるんだと信じ込もうとしている。
 もう一つの世界に生きる汚れのない自分を本当と呼び、現実の世界を生きる自分は、神々の悪戯を矢継ぎ早に受けて浮き足立ってしまっていて、日々の喧騒の中では何一つ確信に到達することが出来ず、地に足が着かないんだと。
 確かに、鏡に映る自分は現世を生きるただの肉の塊にしかすぎず、魂までが剥き出しになって映るわけではない。
「ところで小野さん。時間は大丈夫ですか?」
 他人からも、自分自身からでさえも窺い知ることが出来ない魂の部分を、秘め事のようにして美しく奉り立てようとしているだけなのかもしれない。
「ええ、全然大丈夫です。僕のことは気になさらないで下さい」
 そして物心がつく前の子供達と同列としなければ浄化出来ない母性愛のようなものを、うららなりに必死に繋ぎとめているのかもしれない。