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アガペー 〜あるAV女優へ〜 (後編)

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 勇十赤は相変わらず瞑想を続けている。
 両手はさすがにコートのポケットに収まっていた。
 色白の痩せこけた頬に鋭敏さを保ちながら、額の皺には不安そうで物憂げな相を溢れんばかりに湛えている。

 彼にとって、あくまで彼個人にとってだが、他人から受ける気楽で短絡的な温情ほどやっかいに感じているものはないように思える。
 精工に彫られた氷細工のように繊細な魂に、ある温度以上の温かみを与えてはいけないのかも知れない。   
 彼は己の自我を溶解させてしまうような温情を察知すると、その人間に対して二度とその扉を開こうとはしなくなる。
 一度溶けてしまった自我をもう一度復元させることの労苦を重々に承知しているからだろう。
 だから彼の魂は時として無愛想で、妥協して他人と交じり合うことをしない。
 しかし目が見えないという過酷な条件の中において、その立ち居振る舞いはとても毅然としていて優美ささえ感じさせる。
 それはやはり幾度となく繰り返された失敗と、止め処なく押し寄せる不可思議の波がただただ彼を研磨し、現在の姿を形作り、その心への安易な出入りを許さない独特の間合いを創り出したからではないだろうか。その脳内において、晴眼者を遥かに凌駕する莫大な量のデータを処理しつくした賜物として。
 もちろんこれらは凡人の邪推である可能性は高い。

 知る術はない。全ては想像だ。尋ねることはおろか、話しかけることさえ禁じられている。 
 勇十赤の前では無言になり、勇十赤がいないところではひたすら待つ。
 これが出来るかと最初に聞かれた。
 しかし例え仕事とはいえ、彼のことが人間的に好きでなければとてもじゃないが続けられるようなものではない。
 この仕事をやるにあたり大切にしてることの一つとして、自分の所作や仕草、表情といったものを自分自身で監視もしくは把握出来ているかということがある。
 盲目の人間を前にしてフェアでいられているかどうか。
 俺は、ボチボチだ。