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アガペー 〜あるAV女優へ〜 (後編)

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 勇十赤にとって海はどう広がってるんだろう。
 目の前に広がる大海原と圧倒的な大空の大空間。
 まさか今、この漆黒の海面の不気味さに身の毛がよだつなんてことはあるまいが、この壮大な空間はそこに何も無いからこそ生まれた。
 勇十赤にとって空間は在るものなのか無いものなのか。
 もし在るものだとすれば晴眼者には……少なくとも俺なんかには理解出来る代物ではなさそうだ。
 開放であるとか安心であるとか柔和であるとか、そんなニュアンスの言葉をたくさん集め、総合的にまとめて察知させる何か。とてつもないスケールの慈しみを想像してしまう。
 勇十赤にとって海はどれくらいの広さなのだろうか。
 まさか彼にそんな事を聞かれたら、俺はなんて答えてあげようか。
 実際に今目の前に広がっている海は、彼が思い描いてるよりも大きいのか、それとも小さいのか。
 空とか宇宙はどうだろう。果てが在るのか無いのか。
 彼の頭の中に描かれたその海や空を覗いてみたい気もするが、やはりそれは俺に許容出来るようなものではないかもしれない。
 想像力で敵う気がまるでしないからだ。
 産道に対して胎児の大きさくらいの非現実的な比率をもって畏怖してしまう。
 視覚というのは非常に制限的だ。この凝り固まった不器用な脳味噌も手伝って、視野をこれ以上広げるのは難しいだろう。