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アガペー 〜あるAV女優へ〜 (後編)

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    十二 眠たそうな目で

「本当にありがとうございました。すっきりしました」ゆっくり頭を下げながらそう告げると、うららの長い髪がダラリと垂れ下がり顔が見えなくなった。
 長い時間を費やして、話したいことは全て話せたのか、ぐったりしたまま動かなくなっている。
 途中からはうまく波長も合ってきて、彼女も話しに集中出来ているようだった。
 ちゃかされたような気も、嘘をつかれたような気もしない。
 もしかしたらうららは本当に人を殺したのかもしれない。
 きっと彩赤さんという人はかつては実在していて、そしてもうこの世にはいないんだろう。
 一瞬、殺人の時効云々が頭によぎったがそんな話をする気にはなれなかった。
 ただ魔法とか祈りとか、どこまで本気で言ってるのかの真意を聞かなければ、逆にこちらの姿勢を疑われるのではないかとも思った。
 うららが直接手を下したのかどうかはわからないが、殺したという事実が本当なら重大な告解であることは確かだ。
「殺人にまで話が及ぶのでしたら、やはり一度教会に行ってみてはいかがですか?」と小野は言った。
 うららは顔も上げず、頷きもしなかった。
 有線で再度ニルヴァーナの曲がかかることはなかったが、禁煙エリアは相変わらず誰もいなかった。
 ウェイトレス達は厨房につながる通路のところで談笑している。
 壁に掛けられた時計の針は二十時十分を指していた。