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アガペー 〜あるAV女優へ〜 (後編)

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 私には在るのにあなたには見えていないもの。あなたには見えていて私には見えないもの。
 どうして分けるの?
 このリンゴはあなたにとっても私にとってもリンゴ。あなたにとってはきっと赤くて丸くておいしそうなリンゴ。私にとってはどんなリンゴ? 色はわからない。でも香りからは強烈においしそうだってことが。
 きっと腐ってはない。
 目が見えていても見えてなくても、同じ認識の中で生活出来てるのって奇跡。
 とても不思議。

 私にはあなたが本当にいるだなんて保証はない。いなくてもしょうがないこと。
 例えば、明日朝起きて、その瞬間から永遠に真っ逆様にどこかへ落下し続けたとしても、そういうものなんだって受け入れるしか。
 私にとってこの世の中は未だに何一つ安定なんかしないし、確定もしない。あなただって、この壁だって、この地面だって。もし無くなったとしても、無くなった世界で目が覚めたっていうだけのこと。
 時間というものも基本的には無い。私は周りに合わせるために時間を使ってるだけ。
 時間はただ流れてるだけでいい。朝も昼も夜も、季節も何もいらない。
 老けた、幼い、経験した、してない、覚えた、知らない、出来る、出来ないとかも全部どうでもいい。
 瞬間だけが大事。彼らが欲しがるものは瞬間だけ。
 だから全てがフェア。人間、動物や草木、創造の中で産み出されたキャラクターにさえフェアは及ぶ。
 
 小さい頃はよく赤ってどんな色かみんなに尋ねてた。
 情熱的で元気になる色だって。あとは血液の色、夕方の色、お休みの日の色、りんごの色もそう。
 洋服は全部赤じゃダメ? 私は毎日だって全部赤がいい。全くおかしな決まり事。

 あのね。私の目はね。このまま永遠に見えないなんてことはない。必ず見えるようになる。
 それが生命というものだと、彼らが言っている。
 それが千年かかるのか二千年かかるのかはわからないけど。
 生命は全ての認識を喰らい尽くすまで、延々と忙しく巡り続けるもの。
 それが一つの生命の宿命で、ご褒美。
 私は嘘つかない。