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アガペー 〜あるAV女優へ〜 (後編)

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 それはまるで第一回目の心拍を記録した胎児の心臓のように、ただただ巧妙に始まりました。
 神秘的に脈打たれた猛烈なエナジーで嘔吐するように、思いが逆流してきたんです。
 私は彩赤さんを殺したくなりました。
 そして祈りました。
 ヒルトンのロビーは中国人の観光客で溢れていて、騒がしく会話が飛び交っていました。
 数分後、祈りが通じた瞬間、点睛を帯びた龍はその暴走を止め、私はロビーの天井を仰ぎ見て、開放され、救われたのです。

 彩赤さんを殺した日、透明の彼女は私をずっと追いかけて来ました。
 そしてどうやら私の姿が見えているようでした。
 私は彩赤さんにやっと自分の姿を見て貰うことが出来たことをとても喜びました。
 手を取り合うことが出来なかったのは残念でしたが、彼女の満たされた心をそこに感じて、彼女がとても自信を持った活発な女性になったことを実感し、とても感慨深くなりました。
 彼女の遺体がどこにあるのかはわかりませんでしたが、私はごめんなさいとありがとうを交互に何度も念じました。
 せめて一度くらい彼女のお墓参りに行きたい。でも残念ながら当時の連絡先は繋がらなくなってしまったし、私の方から彼女の家を訪ねたことも一度もありませんでしたので、住んでる場所もわからなかったのです。

 私は薬をやめて、新しい一歩を踏み出さなくてはならなかったのです。
 衝動は殺意。そしてまた無欲。 
 当時は妄想や幻覚、幻聴といったものと現実とがごちゃ混ぜになっていて境界線もありませんでしたので、祈りというものが通じやすかったのかもしれません。魔法という表現だとやっぱりちょっと変ですよね。
 覚醒剤は本当に恐ろしい。衝動と無欲。新しく生まれた二つの銀河がお互い引かれ合ってぶつかり、弾け散って、また引かれ合う。人間の認識を超えた壮大すぎるドラマは、とても統制出来るようなものではありませんでした。