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アガペー 〜あるAV女優へ〜 (後編)

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 覚醒剤を止めた時はすぐに社会復帰することが出来ず、兵庫県の実家に帰って一年くらい療養してから、また東京に戻ってきた。だが、価値観が歪曲したからか以前からの友人達とは付き合いが疎遠になり、親とも意思の疎通が困難になってしまって、随分長い間孤独を感じていたという。
 大学も籍だけ残して休学扱いにしていたが、帰郷がどれくらい長引くか見当がつかなかったので、名残惜しみながらも辞めることを決意した。
 ソープランドで働き始めたのは東京に戻ってきてかららしく、入店当初は薬物と性病検査の頻度が多くて驚いたという。今の店は川崎のソープ街にあるらしい。
 三年前から付き合ってる年下の彼氏は都内の一般企業に勤めているサラリーマンで、性格は温厚でうららの職業にも理解があるらしく、身長は自分よりも少し低いんだと楽しそうに話していた。
 ソープランドの仕事は大変だが今はお金をしっかり貯めて、ゆくゆくは彼氏と一緒に飲食店を始めるのを当面の目標にしているらしい。
 うららは性格が良い印象だ。心を開いて色んな事を話してくれているのは、相性の良さのようなものを感じてくれたのかもしれない。
 このままうららの気が済むまで話を聞いてあげよう。決して現状が変わることがなくても、話を聞いてあげるだけでも少しは楽になるはずだ。
 それは小野にとっても望むところだった。
「すみません。お待たせしました」
 小野には生き別れた七歳になる娘がいた。
「大丈夫です、続けましょう」
 別れた元妻は中国人の女性で、娘は元妻と共に今中国にいる。
 二年前に相手方の再婚が決まってからは、小野側からの養育費の支払い義務が消失したため、相手方との事前の約束で娘にはもう会えないことになってしまい、娘に対しては父親は死んでしまったという教育をすることに決まっていた。
 残酷な約束をしてしまった後悔と自責の念は日増しに強まり、未だ収まることはない。
 相手の温情で定期的に送られてきた写メールも途絶え、娘の近況を知ることも出来なくなってしまった。
 例えようのない喪失感と狂おしいほどの悲憤から生活もままならなくなり、小野もまた休職を余儀なくされた身だった。
 家に閉じこもり、誰とも会わない生活がしばらく続いたが、そんな時に声をかけて励ましてくれたのが友人の牧師だった。
 誰にも話すことが出来ない辛さというのは小野にも痛いほど理解出来た。

 あの日々のことは思い出したくない。
 去来する波に揉まれて少しずつは成長していくのだろうが、晒された場所は時に自分の身の丈では足がつかない。
 焦るな、溺れるな、冷静に戻れ、身の丈の深さのところまで。
 うららの独白は、それはやはり自分の話なのだ。