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アガペー 〜あるAV女優へ〜 (前編)

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「浜辺に誰かいますか?」
「え……? 浜辺にですか? えーと、はい」
 やっと口を開いた。
 危ない、うっかり眠るところだった……。浜辺には……、女が一人見える。
「髪の長い女性がいますね。黒髪でストレート。赤のワンピースで、上着も赤のカーディガンのようなものを羽織ってます。ざっと見渡した感じその女性だけです。見た感じ何をしているというわけでもなく、一人で歩いてるだけのようですね。酒でも入ってるんじゃないでしょうか。俯いたままヨロヨロよろけながらゆっくり歩いてます。痩せ型で割といい女な感じですよ、歳は三十くらいでしょうか。もう十一月になりますからね、オフシーズンの海で夕方といったら砂浜にはほとんど人はいません」 
「その女性だけですか?」
「はい。ビーチの中にいるのはその女性一人だけです」
 ちょうど地平線に向かって太陽が差しかかるところだ。
 晩秋の空は晴れ渡っていて、美しい夕焼けを拝むには絶好のタイミングと言えるだろう。
 でも残念ながらこの男には見えない。
「今ちょうど太陽が地平線にさしかかるところで夕焼けがすごく綺麗ですよ。そういったものはお感じになられるんですか?」
「残念ながらそういったものは、僕に感じられることはないです」
「そうですか。とても美しい景色です。残念です」
 絶景を見ることが出来なくても、海には波の音や潮風がある。それらを感じにきたということだろう。
 連れて行けと言われれば連れて行く。それが俺の仕事だ。
 それにしても会話の途中とはいえ、質問に答えが返ってくるのはめずらしい。
(残念ながらそういったものは、僕に感じられることはないです)
 ただ単に機嫌が良いだけなのか、はたまた二時間近くも無言の空間の中で運転させたことへの労いなのか、何なのか。
 ただ、時折見せる透明感のある微笑みにはとても癒されるし、会話を安売りしない感じも彼のは嫌味を与える種類のものじゃない。
「しばらくここにいましょう。僕をベンチか、もしくは段差のあるところにでも連れてってください。見張ってくれてなくても結構ですので休憩でもしていてください。仮眠をとってもらっても構いません。ただ車の中にいてくれたほうが安心ですね」
「わかりました。ちょうどすぐそこにベンチがありますんで。えーと、距離はここから約二十メートルといったところです。そこまでお連れします。だいぶ冷えると思いますんで、十分に防寒して暖を確保されてください」